昭和の薫りが素晴らしい、老舗居酒屋の幸せ。

夕べは業界の大先輩2人と、目黒区自由が丘にある名居酒屋『金田』に出かけてきた。あまりに楽しくて写真を取り忘れたのは大失敗で、画像無しで失礼します(泣)。店内には、昭和11年に開店して75周年との地味ながら、この渋い店においては目立つ張り紙があった(ああ、写真がないのが大バカものだ)。戦前に開店して今まで堂々と営業を続けてるって、これは偉大な記録といっていいだろう。飲み物は流行のものなんか一切無くて選択肢は極めて狭いが、呑んべえだったらまったく問題ない。料理メニューは豊富でどれもこれも絶品だ。煮物や椀ものは、薄味ながら濃い出汁が楽しめて日本人でよかったと感嘆の声が思わず漏れる。昨日も肉豆腐とさんまの団子汁をいただいたが、もう心の中まであたたかくなるような素晴らしい品だった。

この店の最高の演出は、コの字を2つ並べたようなカウンターで、長っ尻を拒むような雰囲気ともとれなくないが、これが居酒屋なんだと解釈すればよい。うるさいおしゃべりも御法度なのが、このカウンターで呑むルールになっていて、僕はこれまでに2回オパちゃんに叱られてしまった。1人で座る客が多いことへの店からの配慮である。酒はワイワイとやりたい。そんなうるせえ店はごめんだとおっしゃるそんな貴兄は、2階を予約すると安心だ。こちらはいかにも普通の居酒屋で、1階の素晴らしい風情に比べるとやや素っ気ない。それでも名店のスゴさは十分に楽しめることを約束しよう。ただ、昭和40年男なら、まずは1人で1階に座ることをおススメする。75年の重みを感じながら珠玉のつまみの数々を味わおう、ってアド街かよ(笑)。

値段は居酒屋にしてはやや高めだが、僕はこれまで支払いで後悔したことは無い。払った額以上の価値を感じられるから。ちなみに昨日は前述の2品以外に、マグロの中落ち、タコブツ、さつま揚げ、山かけをいただき、ビールが4杯とウイスキーと焼酎で呑んべえ3人がボチボチ酔っぱらって1人3000円少々で済んだ。大先輩たちゆえ食がずいぶん細かったこともあるが、1人5千円も出せば標準的なタメ年たちなら腹一杯になるだろう。

いつも満席の店内を埋めているのは、仕事人生を終えたか、もうすぐ終了とお見受けする先輩が大半を占める。互いの人生の健闘を讃え合うように呑んでいる老紳士たちの笑顔ったら、ものすごくカッコいい。1人で寡黙に呑んでいる紳士や老夫婦も多く、みなさん人生の終盤を幸せそうに楽しんでいる。そんなたくさんのあふれる笑顔も、ここの特上の肴である。居酒屋とは、愚痴ったり上司の悪口を言いあったりするのも大切な役目だ。だが、ここにはそんな話題が見当たらない。その必要がないほど、年齢の高い方々で占められている。そんな店の雰囲気は、僕らのような若い(!?)客にも伝播してきて、つまらない話は無粋じゃないかと自然に封印してしまう。50歳の大台が見えてきた昭和40年男たちは、そろそろこうした空間に足を踏み入れていいのだとの資格を得たと感じながら呑めば、きっと幸せな夜になることだろう。

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