おっさんとマグロ。

深夜の赤坂におっさんが1人、居酒屋でこいつを前に焼酎を呑んでいた。若者から人生を語るリクエストを受けた呑みだったから、あまりくどくなると悪いなと控え気味に呑んでいた。その反動で、別れた後についフラッと入った居酒屋のこいつは絶品だった。マグロの刺身ってのは僕にとってこれ以上ないご馳走で、湯豆腐と並んで最後の晩餐候補だ。だが近い将来、食えなくなるかもしれない。

 

馴染みの料理人たちが口を揃える。近年の魚にまつわる変化には対応しきれないと。まず魚全般が高騰していて、これには様々な要因があり、まずひとつは乱獲だそうだ。例えば本マグロは150㎏を超えたあたりから実力を発揮する。ところが、よく見かける解体ショーなんかでは50㎏前後の小ぶりなモノばかりだ。人間に例えればまだ幼少段階でガンガン獲ってしまうから、当然ながら資源は枯渇して結果として高騰するのはあたり前田のクラッカーである。庶民の味方だったサバなんかも同じく乱獲で高騰していて、ある寿司屋では去年から扱っていないとのことだ。

 

地球温暖化の影響と思われる海水の温度上昇によって、撮れる場所が変わっていることもよく聞く。魚だけでなく貝なんかも産地が移動しているとのことだ。江戸前のうまい青柳を、大好きな寿司屋の親父さんはここ数年河岸に並ばないと言う。ちなみにこの親父さん、今だに魚河岸のことを築地と言ってしまう。豊洲の市場そのものには対応できたが、長年の呼び名は変えられないらしい(笑)。

 

そこで養殖の出番となるが、魚の養殖はまだまだ発展途上である。特にマグロは天然と比べてしまうと全く違う食い物と言ってよく、脂が強すぎる。若者に言わせると脂がのっているそうだが、おっさんの舌にはどうにも合わない。ランチでお世話になっていた近所の寿司屋では、代替わりによってマグロが天然から養殖に変わった。これによって10年近く通った店とおさらばになったのである。そんな店が激増しているのは、店だけが悪いのではなく、前述した通り乱獲や温暖化が響いているのだ。僕の最後の晩餐は、このままではどうやら湯豆腐になりそうである。

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