もしも国内メーカーが、50ccのバイクを作らないと宣言したら!?

おおっ、ドリフのギャグのようなタイトルじゃ。でもバイクの話かよと捨て去らないで、ちょいとおつき合いいただきたい。

日本はものすごくいびつなバイク事情がまかり通っている。日本でいうところの50cc未満の原チャリは、世界では125cc未満というのがスタンダードだ。四輪免許の付帯で125ccまで乗れるというルールを採用している国が多く、世界を相手にしている国内メーカーにとって50ccのバイクはまったく採算性の悪いモデルになっている。悪いどころか、単体でいったらどこも赤字事業だろう。だが日本では免許付帯では50ccまでなのだから、日本企業としての責務の中で作っている。

公共やビジネスのインフラに利用されている実情に応えるのも、メーカーの大きな責務なのだろう。郵便配達はもちろん、今後需要増がのぞめる宅配にはなくてはならない。ところが極めて不利な存在であることはご周知のとおりで、最高速度は時速30㎞に規制されていて、2段階右折なんてバカバカしいルールも守らなければならない。今や日本の公道ではチャリンコよりも遅い存在である。動力がついていることの便利さでインフラ需要があるだけで、現在の道路事情においての乗り物としては破綻しているのだ。

赤字事業である上、交通インフラの中で破綻している50ccバイクであるが、メーカーにとって若者のエントリーモデルであるという目論みがないわけではない。50ccのバイクをキッカケに、より大きなバイクにステップアップしてもらう。ホンダやスズキにとっては将来の四輪へのニーズ喚起にもなる。だがこれには『パイク3ない運動』の壁が立ちはだかる。「運転させない」「買わせない」「免許を取らせない」の3ないである。

僕らの高校時代もバイクに対してはうるさかったが、僕の通った都立高校では取らせないということはなかったと記憶している。通学のみ禁止というレベルではなかっただろうか。空前のバイクブームを迎える直前の高校時代で、その後のブーム下で若年層の事故が社会問題となり、ほとんどの高校で『パイク3ない運動』を施行して、バイクの排除に躍起になった。

余談ながら、僕が主催しているバイクイベントに来てくれる高校生たちは、ほとんどが取材NGだと言う。学校にバレたら停学になるからと。なぜ乗っているんだと聞くと、多くは父親の影響であり、通学以外なら問題無しとの見解で理解を示してくれているそうだ。中には学校に抗議しているというお父さんもいた。そんな『パイク3ない運動』は、現在ではあたり前のことになってしまっていて、完全に思考停止状態で継続されているだけだ。高校生たちがさほど興味を示さなくなったのだから、廃止への議論が生じない。そりゃそうだ。道路最弱の乗り物に2桁万円の投資をしようなんて若者は極めて少数派だ。こうしたエントリーモデルに乗らないから、僕らの高校時代のように中型バイクへの憧れなんてのも育たない。高校を卒業して四輪免許を取るまでは、エンジンを経験することなく育っていく。

初めてエンジンにふれるのが、16歳と18歳では雲泥の差が生じる。18歳まで待つことなく、16歳でバイクにふれることがどれほど大きな経験になるか。そもそもこの間は、男の子にとって最も大きな成長を遂げる時期だ。読書に音楽、映画なんかによっていろんなことを知る。そして知った世界を実践してみて、男のロマンてヤツをつかみ取る。それをどれだけ多く得るかは、後の人生に大きな影響を与えるはずだ。時代が違うと言えばそれまでだが、僕ら昭和40年男たちは、悪いことを含めていろんな経験をリアルに積んだ。大人の世界を垣間見て、うんと背伸びしながら男を磨き続けた中に、無免許で跨がった原付バイクがある者は多いだろう。翼が生えたような感動を味わい、近い将来には中型バイクを乗り回すカッチョいい自分を妄想した。高校生なのに乗り回すのも妄想の中では重要だった。そんな背伸びが生んだ妄想が男の中の男を成長させ続けたのだ。きっと昭和40年男たちはちょうど高校生くらいの子供を持つ者が多いだろうから、ぜひエンジンにふれさせることを検討してみてほしい。

img-dunk-1長い愚痴のようになってしまったが、若者のエントリーモデルとしての効能もほぼ無くなったと言っていい50ccモデルだ。しかし、先日の東京モーターショーでホンダは50ccのブランニューモデル『ダンク』を発表した。なんとエンジンは新設計でのぞむ。目立たない存在だったが、これぞ日本メーカーの心意気を感じうれしくなった。前述のとおり、間違いなく赤字事業だろうからあっぱれである。

さて、やっとここで本日のタイトルであり、僕からの提言(!?)である。ホンダ、ヤマハ、スズキの現在50ccを作っているメーカーが、たとえば2016年春までで50ccの製造から撤退すると発表する。マイクロソフトのOSサポート廃止と同じような話だ。もう維持管理できないし、事業として赤字だから撤退する。ビジネスの世界で考えれば当然のことじゃないか。ところがそうなったら、国内の公共インフラは大混乱になるから、もしかしたら免許付帯は125ccまでと行政を動かすキッカケになるのではなかろうか。少なくとも議論には火がつくだろう。官がメーカーの慰留に必死になるかもしれない。これほどまでに事業妨害をしている官に一泡食わせたいと、そんな風に国家に対して不義理じゃないメーカーたちだからあり得ない話なのだが、海外メーカーだったらカンタンに起こりえそうな話だ。

赤字とはしているが、少しでもそれを小さくするための売価になってしまう。メーカーだけでなくユーザーにも大きな不利益を生んでいるのだ。免許制度によってこうした負荷を強いられているのが現状で、なんとか民意で変えていきたいと僕はこれからもアチコチで声をあげていこうと思う。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

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1件のコメント

  1. 俺たちの世代に二輪は切り離せない青春そのもの。
    中坊の頃、月間オートバイを購読しRZやZに憧れ、免許取得を許してくれる学校へ進学。
    16で速攻で原付取得しミッション二輪で練習。
    中免から限定解除へ何度もトライ。
    免許センターの試験官とも顔馴染みに。
    中免のまま中古のNinjaをゲット。
    条件違反だけのオトガメだからと。w
    もちバイク青春漫画は、あいつとララバイの研二Z2改とバリバリ伝説グンのCB。
    秀吉のKATANAもね。
    あぁ青春の80年代だね。w

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