くさやの干物のおもひで。

ガキの頃嫌いだった食い物が、大人になるとそのほとんどが好きになっている。この一皿は蒲田のチェーン店ながらその雰囲気がまるでなく、客席の多い街中華のような「元祖つけ麺大王」のレバ野菜炒めで、当然ながらレバーはかつて大嫌いだった食材の一つだ。それが今や、大大だーい好物になっているのだから、ガキの頃の好き嫌いってのはあまり強制しなくていいのかもしれない。味覚が稚拙なだけなのかなと思えたりもする。

 

香りの強いものも全般ダメだった。大葉、みょうが、ねぎ、ピーマンなんかがそうで、当時は食卓に並ぶことなんかなかったがパクチーなんて出されたら、きっと母親を恨んだだろうな。野菜はほとんどが嫌いで、特に人参はカレーでも避けたい食材だった。今やすべて好物であり、ネギのない世界なんて絶対に行きたくない。ニンジンも家で晩酌ができるときは生で1本かじるようになった。魚も全般好みでなく、親父が愛するサンマのワタはま〜ったく意味がわからなかった。今じゃなくてはならないものなのに、ガキの頃はうんざりしながら時間をかけて外していたっけ。

 

とまあ、食い物の好き嫌いをほぼ克服したわけだが、ブラウン管の中の人物となるとこれがなかなか克服できなかったりする。絶対に嫌いな歌手とか、芸人さんは存在する。それも長年ずーっと嫌いだったりするから不思議だ。なぜだか明確な理由はわからず、生理的に受けつけないというのがそのほとんどだな。仕事の世界でも苦手な方は存在するが、これに関しては改善する努力が実る場合があるのは味覚同様に見方が稚拙だったのかなあと反省することしばしばだ。要するに人間が練れてないのである。腹を割って近づいていけばいいのはウンウン、食い物同様だ。

 

が、一つだけどうしても克服できないのがくさやの干物である。僕の実家のお隣さんは、完全なるアル中でくさやが好物だった。夕方になると毎日のように焼く。換気扇から吐き出されたあの独特の臭いは、昭和のボロ長屋にはガンガンと入り込んでくるのだ。今も克服できないでいるのはこの原風景からだ。そしてアルコールの臭いをプンプンさせてしゃべられるのも大の苦手だったが、こっちに関しては今や自分がそんなおっさんである。はーっ、早く大勢でワイワイガヤガヤと出かけたいものよのお。
 

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