【悲惨な戦い】怪獣少年のブルース。

昭和40年男の少年時代は、決して楽しいことばかりじゃなかった。今思えば笑っちゃうようなことでも、俺たちは真剣に悩み、戦っていた! ここではホロリと苦い“悲惨な戦いの記憶”を通じて、昭和40&50年代という時代を振り返ってみたい。

『ウルトラマン』を観るためにウソがウソ呼ぶ部活サボり事件発生!

俺はガキの頃、怪獣が好きだった。幼稚園年長の時にはウルトラマンが帰ってきて『スペクトルマン』『ミラーマン』も始まって第二次怪獣ブーム到来、うれしかったね。だけどやっぱり再放送の『ウルトラマン』『ウルトラセブン』がいちばん好きだったかな。『ウルトラQ』はなかなか再放送してくんなくて、幻の存在だったね。
年長組だった6歳のクリスマスにケイブンシャ「原色怪獣怪人大百科」をプレゼントされ、俺の怪獣愛は頂点に達した。怪獣が1匹ずつ、カラー写真と長文で紹介されるゴージャスな図鑑で、シワシワになるまで読んだね! その後ガチャポン消しゴム怪獣コレクターとしてテレビに出たり、筋金入りの怪獣ファンだったんだぜオイラ。

怪獣熱は中学生になっても冷めなかったが、一方では部活もやんなきゃいけない雰囲気で、いちばん楽そうな卓球部入った。
案の定ユルい部活で、俺はチンタラ卓球を楽しんだ。でも放課後、5時半まで拘束されるのが面倒くさいとも思っていた。

そんなある日。朝刊のテレビ番組欄を見た俺は、愕然となった。『ウルトラマン』が再放送、それも平日の夕方5時から!?
これは部活に出ている場合じゃない! だがユルい卓球部でも「ウルトラマンを観たいから休みます」とは、さすがに言えない。どうしよう平八郎。
そうだ京都行こう、じゃなくて仮病を使おう! 俺は「突然ヒザが痛くなった」設定を構築し、部活をサボり始めた。おかげで『ウルトラマン』はめでたく第1話から観られたが、若干の支障が生じ始めた。

辻褄を合わせるため授業の体育も見学するハメに。「ホントにヒザ痛いの?」と疑う友達もいて、軽く足を引きずる小芝居したり、どんどん妙な展開になっていく。でも仕方ないのだ『ウルトラマン』が再放送だから!
結局全39話の放送中のほぼ2ヶ月間、俺は「ヒザが痛くて運動できない」大ウソを貫き通した。ビデオさえあれば、そんな真似はしないで済んだのに。その結果卓球部への情熱も完全に冷め、結局辞めちゃったし。アホにもほどがあったね今思えば。

その後高校に入り「いつまでも怪獣ってのもな」と我ながら思い始めたある日のこと。やはり新聞のテレビ欄を見ると、それは目に飛び込んできた。
『ウルトラQ』再放送? 白黒のためか再放送の機会に恵まれなかった「ウルQ」を、ついに観られる! 放送時刻は…。
朝5時50分? フザけろ!

やはりまだビデオデッキは普及していなくて、我が家のテレビは間の悪いことに居間兼親父の寝室に、それも親父の枕元にあった。スヤスヤ眠る親父を見下ろしつつ、テレビにイヤホンを差し込みスイッチオン!

ギイィッ、ヒュルヒュル、ヒヤアアアッ!

不気味に回転する白黒タイトルを見た時の感動は、今も忘れられない。目を覚ましケゲンな顔をする親父に構わず、俺は全28話を完全に見倒した。カネゴンにナメゴンにケムール人、図鑑でしか見たことなかったウルQ怪獣が、俺の目の前に!

その後ビデオに、観たい番組を録画する日が来るなんて、考えもしない時代だった。なんて懐かしがっている場合ではない。来年は2020年。そう、ケムール人が人間を誘拐し送り込んだ「未来の時間をもつ星」の2020年だ!(登場回のサブタイトルは「2020年の挑戦」)
来年、地球にケムール人がやって来る! とおののく俺はもうすぐ54歳だが今も心は怪獣少年。ドラマのラストで消えてしまった宇田川刑事とも、きっと会えることだろうフォッフォッフォッ。←ケムール人の声だっつーのドン引くなっつーの。

文:カベルナリア吉田

昭和40年生まれの紀行ライター。普段は全国を旅して紀行文を書いている。新刊『ビジホの朝メシを語れるほど食べてみた』(ユサブル)がアマゾン部門別1位獲得! 最新刊『ニッポンのムカつく旅』(彩流社)も近日発売予定! そして同名トークショー「日本のムカつく旅」を1226日(木)に新宿Naked Loftでブチかますから忘年会とか入れないで来てくれよな! 2020年1月に早稲田大学社会人講座「旅の記録術」開講予定、よみうりカルチャー荻窪で「東京ワンデイスキマ旅」「オキナワ達人養成講座」も開講中。趣味はレスリング、バイオリン、料理。175cm×85kg、乙女座O型

【「昭和40年男」vol.56(2019年8月号)掲載】

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