昭和のおっさんとかんぴょう巻。

同世代諸氏はこれを食うだろうか? 馴染みのすし屋の親父さんによると最近頼む人が少ないと嘆く。この素朴な1本で締めるのが僕流で、先日久しぶりに親父さんと勝負した時もしっかりとこいつがアンカーだった。

 

ガキの頃、街のアチコチにあった和菓子屋の定番でもあった。なぜかいなり寿司と一緒に置いてあって、なんとなく高級感を感じていた。ごく稀に買ってくれるとしみじみと噛み締めた記憶がある。海苔の香りと酢飯と甘く炊いたかんぴょうの組み合わせは、若者たちや外国人に再確認していただきたい日本の味だ。

 

お袋もよく炊いてくれた。遠足のお弁当はおにぎり、いなり寿司、そしてかんぴょうの入った太巻きのどれかになる。もっとも嬉しいのが太巻きだった。シャリを切るのはさぞ面倒だと子供心にわかった。加えてかんぴょうは前日から水で戻して炊いているから時間と愛情がびっしり詰まっていた。そんな手間暇かけた太巻きへの感謝の気持ちが今も残っているから、すし屋の締めでかんぴょう巻きをいただくのである。あの日のほっこりとした気分に時間旅行だ。

 

すしは昨今大きく変わった。子供たちの人気ナンバー1はサーモンだと聞く。親父さんは江戸前すしにこだわっていて、サーモンどころかネギトロも置かない。養殖は一切使わない。天然ながらコスパのいい魚を毎朝築地へと探しに行く。昔々、街に普通にあったこんなすし屋が激減している中で、懸命に生き残っている。そこへ築地移転問題が重くのしかかってきた。今回の移転によって、こうした小さな店の少量の仕入れが困難になるそうだ。続けられないかもしれないと言う。この日、とうとう初めて聞いた親父さんの弱気な言葉だ。このかんぴょう巻を失いたくないと切に願う。

 

 

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