「狼になりたい」が好きだから…。

中島みゆきさんの数ある名曲の中で、『狼になりたい』は僕にとって5本指に入る1曲だ。夜明け間際の吉野家で繰り広げられる人間模様が、いろんな感情を連れてくる。若き日の僕は、夜中の吉野家で1人でビールを呑んでは歌の中に入り込んだ気になっていた。余談ながら深夜の吉野家で呑めなくなってしまったのは大変残念である。そのせいで、かつては呑みの締めは牛皿&ビールだったのに、牛丼並と卵になってしまったのだ。まあ、どっちも体にいいわけないな。

IMG_3513『狼になりたい』が好きなことで、あまり知られてない根津甚八さんのライブ盤『「根津甚八」ファーストコンサート』の購入に繋がった。10代のある日のこと、今も昭和のおっさんを喜ばせ続けている『diskunion』でいつものように中古盤を物色していた。「ふーん、根津さんて歌うんだ」とコイツを手に取って曲名を眺めるとなんと『狼になりたい』が入っているじゃないか。あの頃は役者さんで渋い音楽を武器にしている方が多かった。原田芳雄さんや松田優作さん、元々がシンガーだがショーケンにはずいぶん金をつぎ込んだ。きっとそのベクトルの音楽だろうと想像できたのは『キネマ横丁』『素面酒』『ロシア詩人のように』などといった曲名でもわかった。『狼になりたい』のカバーも聴きたい。とはいえ、その歌声はまったく知らないから普通は棚に戻すのに、プライス300円が僕を誘った。おそらく僕のコレクションで最安値のアルバムだ。思った通りの渋い音楽で、演奏もきっと当時の一流どころを集めているのだろう、キリッとしまっている。そして役者らしく歌が演じられていて、注目だった『狼になりたい』もみゆきさんとはひと味異なる男節で響く。

それにしても、やはりみゆきさんの作る世界はすばらしい。時代の変化にまったくへこたれず、最近はこれまた古い歌で『糸』が見直されたりした。その本人がポプコンでグランプリを受賞したのが『時代』なのもまるで宿命のようじゃないか。つい先日、おそらく30年近くのご無沙汰でターンテーブルに載せたレコードからあらためて深く感心させられたのだった。

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