ランチ営業の強力な武器となっていた灰皿の廃止。

ある日、打ち合わせが終わると13時近くになっていた。多くのビジネス街では、12時から13時にランチ難民があふれるほど客が集中するが、どの店もひと騒ぎの後はサーッとひく。さて、今日はよりどりみどりだぞと看板をのぞきながら歩くと、大喰らいには魅力的なセットメニューの看板が目にとまった。店内をのぞき込むとこの時間のわりには賑わっていて、コイツは名店だろうとためらわずに入店した。席に着いて気が付いたのは、この店はランチタイムも喫煙OKなことだ。空いているとなりの席に、僕より後に座った若者2人はすぐに灰皿を要求して、プカーっと吸い始めた。

僕は20代の後半までチェーンスモーカーで、ある日禁煙にトライして以来もう20年以上吸っていない。ひどいスモーカーだったからかあまり人の喫煙は気にならず、むしろ吸っていた当時の自分の気持ちになると、いいじゃねえかタバコくらいと思うことばかりだ。他人様の受動喫煙の問題を軽視するつもりはないが、僕個人としては大酒呑み+超不健康ライフを送っているのに、そんなものを気にするのは矛盾だと思っている。自宅だって客が来て喫煙者だったら灰皿を出し、どうぞどうぞと勧める。そのくらい気にしていない僕ながら、注文の品がテーブルに並んだときは少々まいった。ほとんどの客が食事を済ませて、みなさんがうまそうに吹かしていてさすがに煙い。この瞬間に限ってだが、店内に煙草を吸わない人間は僕だけのようだ。それでもいつもの気にしない姿勢を貫き食事を進めるも、これがまったくうまくない(笑)。ベタッとしたチャーハンとだしの薄い醤油ラーメンのセットで、ご丁寧にラーメンは大盛りにしてしまったのを後悔したほどだ。

今やランチタイムに喫煙OKは大きな武器だろう。こんなにまずいのに客は来る。以前、会社の近くでランチタイムに「タバコ吸えますよ〜」と客引きしている店があったのを思い出した。タバコを吸う環境は厳しくなるばかりなのに、それでも喫煙者はまだまだ多くて、20歳位以上の3人に1人はスモーカーなのだ。昨今、喫煙者を排除する姿勢がトレンドであり、逆手に取って喫煙者を対象にすればそのビジネスチャンスは広がるばかりだ。

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僕が会社の近所でよく行くそば屋は、逆風が吹き荒れるなかでここまで粘っていた。だがついに禁煙に踏み切ったのだ。夕べ気が付いたのは、都が無料で配布しているこのステッカーの1枚が、目立つ場所に張り出されていた。ここにはちょくちょく行くからよく知っていて、ここの主人は吸いおかみさんは吸わない。ついにおかみさんに折れ、禁煙に踏み切ったのだろうと想像するとおもしろい。

「もういい加減にしましょうよ。困っているお客さんがたくさんいるから」
「わかってないなあ、食後の一服はごちそうなんだよ。禁煙にしたら客が減るぞ」
「そんなことない。きっと逆に増えるはずだから」
「じゃあやってみよう。本当に増えるかどうか小遣いを賭けて勝負だ」

なんてことになっているんじゃないかなと。そして僕はこの店のランチ客は減ると読んでいる。前述の中華店ほどまずくないから禁煙客も多くいるようだが、減りゆく喫煙パラダイスを求めて来る客は多いはずだ。さてさて、どうなることやら。この勝負の行方を見守れるのは、僕にとっては大好きな蕎麦を食う楽しみが増したってもんだ。

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