カワサキ・Z1をつくった男。

先日、駒場の東大に出かけてきた。『昭和40年男』の編集長ともなると、講演の依頼が次々と舞い込むのだ。スミマセン、大ウソです。『若きターボ機械技術者へのメッセージ』とのタイトルにて尊敬する大先輩が講演するというので、取材に出かけてきたのだ。

カワサキの元技術者で常務取締役まで務めた大槻幸雄さん自身の仕事経験を元にした貴重な説教だった。昭和30年にカワサキに入社して以来エンジン設計一筋で歩み、バイクメーカーとしては完全に後発だったカワサキの新車開発を牽引した人だ。そしてスローガンを打倒ホンダとして生まれた究極のマシンがマッハであり、この歴史上の名車・Z1である。その現場で「とにかく馬力を出す」と切り盛りしたことからミスターHP(馬力)との異名を持つ。一度インタビューをさせていただいて以来のお付き合いである。昭和5年生まれで今年82歳を迎えるが、年齢をまったく感じさせない。1時間半にも及ぶ立ちっ放しの熱演は見事だった。

数々の名車を生み出した後、ガスタービンの研究に従事するようになり、ここでも輝かしい業績を残している。日本ガスタービン学会の会長を務め、科学技術庁長官賞など数々の受賞を誇っているタービンの世界でも偉大な方なのだ。バイクとタービンに捧げた人生を講演のカタチで聞けるのはなんとも贅沢な時間だった。

現在の閉塞感に立ち向かっていくには、技術者が世界一の製品を開発して国家の発展に寄与することが肝要であるとの激から始まった。続けて大槻さんが自身の開発者魂の原点とするのは、十分な予算も時間もない中で技術者の不眠不休の努力によって生まれた零戦と戦艦大和をあげた。さらに敗戦後わずか30数年で、GNP世界第2位となり、あらゆる分野で世界一の製品を生み出した先輩たちの業績を誇りと思い、ピンチはチャンスなのだとこの閉塞感を払拭せよと続けた。よくある話と感じるかもしれないが、実際に世界一の製品を生んだ男の言葉は重みがありズシリとくる。

ここからは技術者へ向けての具体的なアドバイスへと入っていった。まず、製品開発に留意すべき点としてその冒頭の言葉が「リスクを冒し開発目標を明確にできるだけ高く掲げ、世界一を目指す。そしてリスクとアドベンチャーとはまったく異なる」とした。技術的な洞察がなく、根拠なしにとんでもない目標を設定するのはアドベンチャーなのだと。事実Z1が生まれた背景には、限りなくアドベンチャーに近い数値目標が掲げられたが、大槻さんは必ずできると現場で旗を降り続けた。そしてまさに不眠不休の男たちの努力によって、世界中が度肝を抜かされた名車が生まれたのだ。リアルタイムでZ1のことを覚えている昭和40年男はいないだろうが、あのバイクの美しさを知る者は多いことだろう。大槻さんがいなければ生まれてこなかったかも知れない、もしくは世界を驚嘆させたバイクにならなかったかもしれない。昭和の伝説となる仕事の一つだ。

講演は冒頭で述べた、国家の発展に寄与せよとの言葉を今一度述べて幕を閉じた。工業製品ではないものの、僕も同じような努力が必要な立場にいる。踏ん張らなければならぬ。

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2件のコメント

  1. 学生の頃、片岡義男の『彼のオートバイ彼女の島』という、本と映画がありました。
    彼女「カワサキさん、これ何て言うの?」
    彼「オートバイ」
    ってなセリフで、胸キュンになり、
    男カワサキのgpzを買っちまいました。
    懐かしいです。

    追伸、
    自分の本が書店にヒッソリ置いてあるのを見て、駆け出しのミュージシャンが、手前に置いて帰る気持ちが分かりました。

    • 返事遅れました。うれしいですよね。僕も『昭和40年男』をレジに運んでくれた人にはお礼を言いますよ。

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