老舗の矜持を感じ入る大人。

「いつか千疋屋でメロンを食わしてやる」というのが、ガキの頃親父から度々聞かされたが一度も叶わぬままだった。そしては今に至っても千疋屋のフルーツを体験したことがなかった。銀座・日本橋界隈でぶいぶい言わせている千疋屋で、50代も半ばを過ぎたのだから一度は体験した方がいいのだろうと思っていたところ、友人から素敵な包みをいただいた。初の千疋屋体験である。

 

説明しよう。千疋屋は都内を中心に展開する超高級フルーツ店で、パーラーも展開している。創業は1834年とのことだから天保年間である、ぎょえーっ。当時の将軍は11代目の徳川家斉で、まだ葛飾北斎が存命の頃だ。ちょうど富嶽三十六景の最終発表の年だそうだ、ぎょえーっ。200年近くの歴史を持つ果物屋さんであり、江戸文化が大好きだった親父だから冒頭のセリフがあったのかもしれない。これを総本店として、京橋千疋屋と銀座千疋屋と暖簾分けがなされている。店舗はどこも少々足を踏み入れづらいほど、ザンギーな風格がある。百貨店での展開は比較的覗きやすいものの、値段を見ると無関係だと思わされてしまう庶民である。

 

いただいた品は京橋千疋屋のもので、1881年に暖簾分けしたことがこの風呂敷からわかる。重厚感がありありで美しく、出てきた木箱がまた興奮させる。開けると一つひとつ包装された梅干しで、今まで味わったことがない世界へとぶっ飛んだ。高級梅干しをうたったハチミツ入りのやつかなと一瞬想像したが、ほのかな自然の甘みで塩分も薄い。そう、これはフルーツである。天保年間から続くクオリティってやつだなと嬉しくなった次第だ。

 

こういう瞬間に、大人っていいなと思う。江戸の粋や老舗の矜持みたいなものを強く感じることができるのは、やっぱり大人になったってことだな。少し以前には、赤坂の虎屋に入って甘いものが苦手ながら羊かんをいただいて感動した。こちらは5世紀以上に渡り天皇家に納めてきたというから驚き桃の木である。東宮御所の目の前にあるここもまた、時間の重みをじっくりと感じることができる空間である。メロンよりお安く楽しめるのもいい。って、ここでプライスの話を出すのだから無粋の極みだな。
 

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