俺たちバイトで大きくなった。

寒い。今日も雪が舞い散る東京は、おっさんを容赦なく痛めつける。体調管理に気をつけましょうね、皆さん。

さて、この寒さで思い出したのが人生初のバイトの経験だ。高校2年生のかわいい僕は、ミュージシャンを夢見て日々練習に励んでいた。欲しい欲しいと身悶えるギターは常に何本かの候補があり、広く深く音楽を知りたいからレコードは欲しいタイトルばかり。加えてバンドの練習で使うスタジオ代となにかと金がかかり、さすがにそれを親に出してもらうわけにはいかずバイトを探した。ロッド・スチュワートになりたくて(笑)髪が長かった僕なので、高校生の定番のファーストフードショップとか茶店はダメだった。ミュージシャンになりたいからバイトしなけりゃならないのに、そうだから門戸が狭くなるってのはなんだか妙な話である。さらに、高校に通いつつ歌のために肺活量を増やそうと始めた陸上部の練習に、バンド活動のための音楽をプレイする時間というがんじがらめの中で見つけたのが、深夜の駅ナカハンバーガーショップの掃除だった。

それまで経験した親父の電気屋の手伝いとはわけが違う。社会の中で働く高揚感と緊張は今も興奮を連れてくる。初出社の日、夜11時過ぎに家を出て深夜の電車に乗り込んで東京駅で降りる。そして閉店したハンバーガーショップの掃除を始発までかけて念入りにやるのだ。初日のみ先輩が付いてくれてイチから教わった。名台詞は、バンズのゴマ一粒でも床に残しちゃならぬだった。んなバカなと心で叫びながら先輩から学び、次回から僕は1本立ちした。広いハンバーガーショップを1人で掃除するのは、なんとなくロッカーじゃねえなと次からはミニカセットレコーダーを持ち込みせめてロックをかけた。そんな夜に響き渡った曲の数々は今もあの頃を連れてくる。

バイトを終えるとその日の稼ぎを考えながら朝の電車に乗り込む。駅からのチャリンコがものすごく寒かった。と、冒頭につながるのである。寒さに凍えながら家に帰り、ほんの1時間ちょっと布団に潜り込んで学校に行き机で寝るなんてのを繰り返していたが、さすがにしんどくて長続きはしなかった。

初バイトで得たギャラは楽器に変わることはなく、スタジオ代とレコードで軽~く消えた。が、ミニカセットレコーダーから店内に鳴り響く音楽が心に染み入る感じは、今も大切な思い出である。僕もこんな風に必要にされる音楽を作りたいと、誰もいない夜中に固く誓った。帰り道のチャリンコで冷たい風を受けながら、いつか見ておれと夢を大きくしていく。やはり10代の心は忘れちゃいかん。あの気持ちは忘れちゃいかんなと、寒さに弱くなったおっさんは固く誓うのだった。

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