初めて買ったチープ・トリック。

チープ・トリック♪ダ〜イヤトーン、ポップスベストテン♪

「こんにちはシリア・ポールです」で始まる毎週土曜日のお楽しみ番組は、中学1年の頃より洋楽の情報源の1つとして重要な存在だった。僕の人生はこの番組と雑誌『ミュージックライフ』によって大きく狂わされたと言ってもいいだろう。ロックなどという悪魔の音楽と出会ってしまったせいで、近所でも評判の優等生はドンドン堕落していった。本来なら教師になって、今頃はスピード出世で校長になっていたことだろうが(笑)。

…と、僕の人生論でない。今日の主役はチープ・トリックである。始めて彼らの音にふれたのは、中2頃のヒット曲『ヴォイシズ』だ。美しいバラードに僕はノックアウトされた。『ミュージック・ライフ』でもちょくちょく取り上げられていて『チープ・トリック at 武道館』は、気になっていたところだった。『ヴォイシズ』はアルバム『ドリーム・ポリス』からの先行シングルで、この新作は発売日に買うと心に決めた。だが、発売はなぜか延期となり、やがて知ったのは『チープ・トリック at 武道館』が日本から逆輸入のカタチでアメリカで火が点き、そのヒットとかぶらないようにとの大人の事情だったそうだ。

発売を心待ちにしているところに、FM番組で発売前だった『ドリーム・ポリス』の特集番組が組まれた。2曲をのぞいてオンエアされたと記憶していて、当然カセットテープに収めた。思っていた以上に気に入り、パワープレイを繰り返しているうちになんと飽きてしまった。嫌いになったわけじゃないが、心は完全に離れてしまったのである。絶対に買うはずだったチープ・トリックのアルバムはそのまま後に至るまで1枚も買うことがなかった。あの番組によって、少なくとも1枚のセールスを落としたことになるのだ。

中高生にとってレコードは大きな買い物であり、購入することでそのアーティストの虜になってしまうことは往々にしてある。聴きながらじっくりとジャケ写を眺めていると、憧れが増幅するものだ。エアロスミスの『ライブ・ブートレッグ』盤を聴きながら、ライブのショットを眺めていた時間が、僕のなかで彼らをどんだけアイドルへと昇華させたことか。『ドリーム・ポリス』はアートワークもわりと凝っていたから、もしあのラジオ番組がなかったら僕にとって偉大なアイドルになっていたかもしれない。彼らのようなポップなサウンドに、中2でズッポリとハマっていたら、後に僕はシティ・ポップミュージシャンを目指したかもしれない…なんて、人生ってヤツは実に曲がり角が多いものだ。

先ほどの昼休みにのぞいたレコード店で、ずいぶんと散財させられているソニーの誇るいい音『Blu-spec 2』による『チープ・トリック at 武道館』を見つけてしまった。しばし中2のカワイイ僕へと時間の旅を楽しんだ後、レジへと運んでしまったのだ。今宵は『サレンダー』で燃えるぜ。

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