昭和40年男のお買い物 〜やっと見つけたコート。

ずいぶん前に購入したダウンのコートを愛用していた。なんてったってあたたかい。年齢のせいなのか、昔より寒さに弱くなったと感じ始めた40歳前後で手に入れたものだ。モコモコしてあまりカッコいいものじゃないが、コートなんざあたたかければいい。ところがある日、コートは男の重要なアイテムだと気付いたのだった。

気付かせてくれたのは、大手企業の広報部長で僕より歳は4つ上だ。まだまだ高いポストを狙っている仕事のできる男で、酒の席をご一緒させていただくことが多い。一昨年の暮れの押し詰まった寒い夜のこと、グルメな彼はいつもどおりにうまい店でごちそうしてくれた。「じゃあ、歌でも」と、お決まりコースへと店を出るときに僕は思わず見とれた。ものすごくカッコいいロングコートを羽織って、年齢なんかぶっ飛ばす真っ赤なマフラーをさり気なくキメていた。それまで安物ダウンで十分だと思っていた僕が、なんだか恥ずかしくなってしまった。目的の店に着くと「上着をお預かりします」と言ってくれたきれいなママに、ダウンを預けるのがなんとも恥ずかしかった。部長さんの重厚なコートに対して、僕のフワフワしたダウン。一緒に預けた真っ赤なマフラーに、すかさずママは反応して「○○ちゃんたら、キザねえ」なんて言われる姿を見て、強い劣等感を持ったのだった。

「買う、俺はコートを買うぞ」と誓った瞬間だ。年が明けてバーゲンに出かけた。きっと彼のコートはバーゲン利用じゃないだろうなんて考えながらも、丸井の赤いカード世代の僕には50%オフほど強い味方はない。目を光らせてしっかり探したのだが、お気に入りものが見つからずついにそのままやがて春が来た。そして巡ってまた冬が来て、今年のバーゲンにかける僕の意志は強かった。今度こそダウンと決別するぞと、グチャグチャに詰まった仕事の隙をついて、やはり丸井に入った。

コート画像4フロアある紳士服売り場を、探しながら1つずつ上っていき、見つからないまま最終のフロアでまたの越年を覚悟し始めたとき…、あった!! 僕好みのコートが見つかり、駆け寄るようにして手に取った。袖を通し鏡をのぞき込むと、あの部長さんほどの重厚感はないもののカッコいい。手が異様に長い僕にもサイズバッチリで、即決定したのだった。フッフッフ、バーゲンも終盤に差し掛かっていたから、なんと60%オフで手に入った。あたたかさはダウンの方が上だが、コイツの方が断然凛々しい。

今描いている野望は、部長さんと一緒に一昨年の暮れに行ったスナックに乗り込むことだ。マフラーも探した方がいいかな。

 

 

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