意外なことこそオ・モ・シ・ロ・イ。

昨日は取り先であり、仲間である男と差しの酒だった。
「もう一軒行きますか?」「いやあ、もうすっかり出来上がってしまったよ」「では」と別れて、僕も帰ればいいのに。いや、1度はホワイト北村が自分を支配して駅へと足を向かわせた。だが、進むこと10数メートルの間にブラック北村がムクムクと現れて、かわいそうにホワイトを完膚無きままにやっつけてしまった。一度敗れ去ったホワイトはもう立ち直れず、ブラックに支配された僕は知り合いが経営しているバーへと向かったのだった。楽しく過ぎていく時間はいつの間にか終電を奪い去り、こうなったらとすっかり深酒を決め込んでしまった。深夜2時をまわったところで店を出て、さらにブラック北村は主張を続け、究極の悪巧みをする。ここまできてなんと、ラーメン屋へと足を向かわせたのだ。前日にスポーツマンがどうとか書いていた僕はもういない。ブラックの支配のままに、餃子&ビールをオーダーしていた。さらに続けて、そんじょそこらのワルじゃないぜと「辛みそ、大盛りください」と締めるにいたったのだった。

舞台は東京を代表する繁華街の赤坂だ。以前さんざん悪口を書いてしまったが、まだまだいい店はたくさんある。ここ『一点張』は、赤坂っ子ならみんなが知っている味噌ラーメンの名店だ。深夜のここには実に様々な人種が集う。僕のような真面目なビジネスマン(うそ)から、ちょっぴりダークな方、さっきまでニコニコ顔で客引きしていた兄ちゃんや姉ちゃんら、都会の夜を生き抜く人種のるつぼだ。

僕が座ったカウンター席の間3つ空けて、着物姿の50代くらいの女性が陣取った。気品あふれていて、間違いなくご近所のママさんだろう。おもむもにスポーツ新聞を広げ、僕と同じ餃子&ビールをオーダーした。敏腕カメラマンならこのミスマッチで奇跡のような光景をカメラに収めることだろうが、僕のような凡人にはそれができず、せめてこうして皆さんに報告するのみだ。意外ってヤツは世の中をおもしろくするもので、僕は絶品の辛みそラーメン以上の価値を感じながら、やはり味噌ラーメンを啜り始めたママさんの背中を通り過ぎて店を出た。うーん、大満足。

そしてスッキリと目覚めた朝。今日もハードワークだぜと、吉野家に駆け込みいつものヤツって言っても通じないから「牛丼の大盛りツユダクと卵ください」って、丁寧にオーデーを決めた。向かいで座った、どう見てもあちら側の世界を突っ走っているいかついコンビが牛丼を頬張りながら、それっぽい単語を使って大声で会話していた。不景気の波はここまで来ているのかと眺めていると「スミマセン、お勘定お願いします」「ごちそうさまでした」と、やたらとご丁寧なお2人にビックリで、まるで前日、いや、厳密にいえばついさっきのママさんを彷彿とさせる光景だった。

意外ってのは、じつにおもしろいことであり、かつてお笑いの世界を目指している頃にこの法則を知ったらきっと僕は大物になっていただろう(!?)。そして自分の身の回りを眺めてみると、僕はこんなバカ面した犬なんか飼っていて、ごくたまにだがお散歩なんか連れて行ったりしているのだ。

ママさんよりも、いかついコンビより、よっぽど意外な僕との組み合わせだ。ふふふ、人生ってヤツはおもしろいな。

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