2019年、ついに待望の新型KATANAがデビューした。昨今のバイク界ではネオ・レトロやヘリテイジといった過去の名車をオマージュしたモデルが人気となっているため、その流れに乗ったモノと思われがちだ。しかし現実はちょっと違う。俺たちが憧れた初代GSX1100Sカタナ(以下、ファーストカタナ)と同じストーリーを経て誕生しているのだ。

“いつかはカタナ”。鮮烈なデビューによって俺達の目に焼き付き、憧れた存在

ファーストカタナの歴史を紐解くと、登場は1980年のケルンショー。当時の概念からは考えられない近未来デザインをまとい俺たちの目を釘付けにした。あまりの先進ぶりに誰もがショーモデルだと思っていたが、翌年にほぼ変わらない姿で市販されたときは業界全体が驚いた。ファーストカタナによってスズキというメーカーを見る目が大きく変わったと言っても過言ではない。

じつはそのファーストカタナ、デザインの元になったマシンがある。それはドイツのバイク雑誌で開催されたコンペに出展されたMVアグスタのコンセプトモデル“ROSSO RAPTOR(赤い猛禽類)”だ。製作したのはドイツのターゲット・デザインというデザイン会社。そこに在籍していたデザイナーの1人がハンス・ムート氏だ。その名を聞いて「おっ!」と思った人もいるだろう。そう、ファーストカタナ=ハンス・ムートという公式が成り立っている同世代諸氏は多いハズだ。

当時のスズキのヨーロッパ担当者がROSSO RAPTORのスタイルに興味を持ち、彼にコンタクトをとったことからファーストカタナがこの世に生まれたのだ。ベース車両は、当時のスズキのフラッグシップだったGSX1100E。ファーストカタナは、そのスタイリングを変更したモデルだ。ちなみに日本ではハンス・ムート氏の名がメインで伝わっているが、ファーストカタナのデザインは主にターゲット・デザインに在籍していた他のデザイナーが手がけたと言われている。ハンス・ムート氏はスズキとの渉外役として手腕を振るったのだ。

そうして生まれたファーストカタナは、そのスタイルの斬新さからドラマや映画、マンガなどに数多く登場した。そこで活躍する姿を見て俺たちは熱くなり、いつかは乗りたいと憧れた。しかし当時、大排気量バイクに乗るには試験場での一発試験“限定解除”をクリアしなければならなかった。そのハードルは高く、100人受けて合格者は1~2人程度という狭き門。諸氏の中にも取得をあきらめて中免ライダーで過ごしたという人がいるのではないだろうか。しかし時代は流れバイクを囲む環境は大きく変わった。今や教習所で大型二輪免許を取得することができる。“カタナに乗って颯爽と走る”という夢を叶えるお膳立ては整ったのだ。

途絶えたかのように思えた“カタナ”への夢――だが伝説は新たなステージへ

俺たちを魅了したファーストカタナの生産は、2000年に1,100台生産されたファイナルエディションで終了となった。それ以降リニューアルを望む声もあったが、なかなか実現には至らなかった。それはファーストカタナがあまりに偉大になってしまったからかも知れない。俺たちの“カタナ”はもはや途絶えてしまうのか。そう感じていた2017年、ドイツのモーターサイクルショーに1台のバイクが展示された。その名も“KATANA 3.0 CONCEPT”。イタリアのバイク雑誌の企画によって作られたコンセプトモデルだ。GSX-S1000をベースにイタリア人デザイナーのロドルフォ・フラスコーリ氏がスタイルを磨き上げ、エンジンズ・エンジニアリング社が製作したものだ。突然の登場だったがショー会場での反響は大きく、そこに次世代のカタナを見出したスズキが量産化を決定。1年という異例の早さで量産モデルを開発しデビューにこぎつけたのだ。そうして俺たちの目の前に現れた新型KATANAは、LEDヘッドライトやショートテール、スイングアーム直付けのナンバープレートなど先進の装備を採用しつつ、あのころ俺たちが熱くなった“カタナ”のイメージを見事に継承していた。

ファーストカタナと新型KATANAの共通点は“雑誌企画でプロトタイプが生まれた” “すでに存在するバイクがベース車両” “外国人デザイナーによるスタイリング” “スズキがプロトモデルの基本デザインを崩すことなく、より上質になるようディテールにこだわりながら量産化”等々。そしてなにより“誰が見てもカタナの名に相応しいデザインであること”だ。

俺たちの“カタナ伝説”はここから新しいステージに踏み出していく。その先進のスタイルとディテールを、ファーストカタナとの比較を交えながら紹介しよう。

ファーストのオマージュだけに終わらない高いオリジナリティ

スズキ 新型KATANA
シャープなエッジが浮かび上がるシルエットは、間違いなくファーストカタナの後継者であることを明確に感じさせる。バイク乗りのみならず、バイクに詳しくない一般の人の印象にも残るスタイルだ
スズキ 新型KATANAの銀(ミスティックシルバーメタリック)と黒(グラススパークルブラック)のツーショット
伝統の銀(ミスティックシルバーメタリック)に加え、黒(グラススパークルブラック)のボディカラーが用意される。純正で黒がラインナップされたのは歴代のKATANA史上、初めてのこと。ボディラインが引き締まり、新型KATANAの新しい魅力が引き出されている。この佇まいを待ち望んでいたマニアも多いはず

スズキ 新型KATANAのミニスクリーン
ファーストカタナ最大の特徴でありアイコンでもあったミニスクリーンも健在。高速域では想像以上に効果があった存在だが、現代の解釈ではよりスラントしてメーターバイザーに近い形状になっている
スズキ 新型KATANA LEDヘッドライト
ヘッドライトはスクエアに近い六角形。最先端のLED仕様でセンターに入るブリッジの左右にも光源があり独特の光り方をする。KATANA 3.0 CONCEPTでは異型ヘッドライトだったが、ファーストカタナのイメージに近くなった
スズキ 新型KATANAのスポイラー
ファーストカタナのカウル下部にはダウンフォースを生むスポイラーが装着されていたが、新型KATANAにもその要素は継承され先端がポジションランプになっている
スズキ 新型KATANAのフロントカウル
フロントカウルの先端部分はシャープに伸びた形状を踏襲。ただし面の構成はエッジを活かした複雑なものとなっていて、より切れ味が鋭くなった印象になっている
スズキ 新型KATANAのフル液晶メーター
現代のバイクでは標準となっているフル液晶メーターを装備。タコメーターにRがあるデザインはファーストカタナのイメージか。起動時に刀マークが浮かび上がるギミックがある
スズキ 新型KATANAのハンドルバークランプに入ったカタナのロゴ
バーハンドルのクランプ部に、刀のロゴマークが入った高品位プレートがセットされる。所有欲を高めてくれると同時に、乗車していると常に見える部分だけにテンションも上がる
スズキ 新型KATANAのハンドルグリップ
グリップのパターンが日本刀の柄を模しているように見えてしまうのは、すでにカタナの魅力に取りつかれているからか。是非はともかく、握りやすく滑りにくい
スズキ 新型KATANAのバーエンド
ファーストカタナのバーエンドに似たブラックの筒型バーエンドを採用。重いバーエンドはエンジンからの微振動を抑制するのに効果があった
スズキ 新型KATANAのバックミラー
ファーストカタナと同じハンドルマウントのバックミラーを装備
スズキ 新型KATANAのフロントブレーキ
現在は波型のウェーブローターを採用する車両も多いけれど、新型KATANAは真円のディスクローターを採用。ホール以外に余計なディテールがないのもよい。キャリパーはブレンボ製のラジアルマウントタイプ
スズキ 新型KATANAのフロントカウルサイドに入った刀のマーク
ファーストカタナから継承された、漢字の“刀”と日本刀のシルエットを組み合わせたマークは、フロントカウルサイドに大きく入れられている
スズキ 新型KATANAのフロントフェンダー
高剛性の倒立フロントフォークに装着されるフロントフェンダーは、ファーストカタナをイメージさせる円をカットしたような形状を継承。シンプルで全体のフォルムに調和している
スズキ 新型KATANAのフロントカウルサイドディテール
フロントカウルサイドの刀マークの上にあるディテールは、ファーストカタナのフロントカウル下のサイドミニカウルに入っていたスリットを彷彿させる
スズキ 新型KATANAのタンクに入ったエッジ
タンク部の深いエッジ形はファーストカタナのデザインを受け継いだもの。ファーストカタナは金属をプレスして表現していたが、新型は樹脂製のタンクカバーになっている
スズキ 新型KATANAのタンクに入ったSUZUKIの文字
タンクのエッジに沿って入っている赤いSUZUKIの文字もファーストカタナから受け継いだもののひとつ。シルバーとレッドのコントラストは強く印象に残る
スズキ 新型KATANAのサイドカバー
シルバーとブラックの樹脂パーツを巧みに組み合わせることによって、ファーストカタナに酷似したコンパクトなサイドカバーの形状を再現
スズキ 新型KATANAのサイドカバーに入ったスリット
サイドカバーに入っている3本のスリット状のディテールはファーストカタナにも入っていた。細かい部分までファーストカタナのデザインを意識していることが理解できる
スズキ 新型KATANAの大型ラウンドラジエター
ファーストカタナのファイナルエディションに装備されていたオイルクーラー同様、大型のラウンドラジエターはブラックで仕上げられている
スズキ 新型KATANAの4-2-1集合マフラー
ファーストカタナでは左右2本出しマフラーだったが、新型KATANAでは4-2-1集合マフラーを採用。ちなみにファーストカタナのプロトモデルはテルミニョーニ製の集合マフラーを装備していた
スズキ 新型KATANAの左右非対称・高剛性アルミスイングアーム
GSX-R1000譲りの左右非対称・高剛性アルミスイングアームを採用。ブラックアウトされているが、現代のKATANAらしいメカニカル感がある
スズキ 新型KATANAのショートマフラー
スイングアームのすぐ横で終わっているショートマフラーは、ファーストカタナ同様にブラックタイプ。サウンドチューニングによって重量車らしい図太いサウンドを味わわせてくれる
スズキ 新型KATANAのスイングアームで支持されたナンバーとリヤウインカー
ナンバーとリヤウインカーはスイングアーム支持。これは新型KATANAのみならず、スズキ車として初の試み。過去のデザインにとらわれないというKATANAスピリッツの表われだ
スズキ 新型KATANAのシート
シート自体は現代風に短くアレンジされているが、ブラックとグレーという2色のシート表皮を組み合わせているあたりはファーストカタナを受け継いでいる
スズキ 新型KATANAのタンデムシート後部に入った3本のスリット
タンデムシート後部に3本のスリットが入っているのもファーストカタナをオマージュしたもの。カタナマニアにとってもうれしい配慮だと言えよう
スズキ 新型KATANAのリヤウインカー
スイングアームと一緒に動くリヤウインカーの微振動を抑えるために追加された上部のパーツは刀のカタチになっている。こういう細かい部分にも造り手の配慮が感じられる
スズキ 新型KATANAのフロントLEDウインカー
フロントのLEDウインカーはビルトインではなく左右に飛び出している。装着位置こそ違えどファーストカタナと同じ取り付け方法だ
スズキ 新型KATANAのテールランプ
シャープでコンパクトなテールランプの形状もフロントカウルと同じような解釈で造形されているように見える。左右がテールランプで中央がブレーキランプになっている
スズキ 新型KATANAのショートテールカウル
ショートテールカウルの左右に張り出したウイング状の造形は、ファーストカタナ同様に空力特性を重視していることをイメージさせてくれる
スズキ 新型KATANAのタンデムシートの裏側
タンデムシートの裏側に、ツーリングする時に便利なナイロン製の荷掛けフックを備えている。また最低限の車載工具もセットされている
スズキ 新型KATANAのヘルメットホルダー
ヘルメットホルダーはシートを外したところに装備している。左右にあるのでタンデマーのヘルメットもかけておけるのがよい

細部までよく見てみると、あのカタナのスタイリングをしっかりと受け継いでいることがわかるだろう。そう新型KATANAは、まさしくカタナ以外の何者でもない。続くPART2では、走行性能における特徴について迫るので、乞うご期待!

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提供:スズキ株式会社