それは夢の国の飲み物「ジュース」

昭和40年男の悲惨な戦い

昭和40年男の少年時代は、決して楽しいことばかりじゃなかった。今思えば笑っちゃうようなことでも、俺たちは真剣に悩み、戦っていた! ここではホロリと苦い「悲惨な戦いの記憶」を通じて、昭和40年代&50年代という時代を振り返ってみたい。

有り金つぎ込んでファンタ レモン飲みまくり!

秋だね。秋と言えば運動会、って思ったら最近は春にやるんだねビックリ。そして俺ら昭和40年男は、運動会で体験したはずだ“水飲むな地獄”。水道のそばに教師がいて「水飲むな!」って、なんだったのかねアレ。そう、ガキの頃、基本の飲み物は“水道のぬるい水”だった。夏に麦茶が登場するとそりゃもううれしくて、ましてやジュースなんて、夢の国の飲み物だったね。

我が家は毎朝牛乳が配達されてたけど、ある朝外に出たらちょうど配達のオジさんが来て、「坊や早起きで偉いなー」ってオマケで1本くれたんだよビン入りリンゴジュースを!

金色にキラキラ輝くリンゴジュースは、手の届かない憧れの飲み物だった。それが俺の手の中に! 飲んだよ金色のリンゴジュース、この世にこんな美味いものがあるのかって思ったね。

その後どうしたかって? 翌日から毎朝、外で牛乳配達の音がガチャガチャッてすると、俺は「それーっ!」って飛び出していったよ。オジさんは毎朝イヤな顔ひとつせずにジュースをくれた。たまにフルーツ牛乳をくれることもあって、これがまた美味いのなんの南野陽子! だが毎朝飛び出していく俺にある日、母が渋い顔で言った。

「ウチで何もあげてないみたいだから、やめなさい!」

ぶにゃーい。ってなわけでリンゴジュース生活は終わったけど、その頃かな“炭酸飲料”が俺の前に現れたのは! 当時は種類も少なくてファンタにコカ・コーラ、三ツ矢サイダーにキリンレモン。一時、ミリンダやスカットなんてのもあった。前号でも特集したチェリオはウチの近所にはなかったなー。

俺は炭酸のシュワシュワするのど越しは好きだったけど、その後に顔全体にグババッて戻ってくるゲップが苦手だった。コーラのゲップは半端なくて、顔の前半分が取れた!っていうくらいの激ゲップ。だから俺は炭酸弱めのファンタ グレープを専門に飲んだ。一時ファンタ アップルと、一瞬ファンタ ゴールデングレープも出たのは、もちろん覚えているよな。

そんなある日、ショッキングな出来事が起きた。修学旅行で京都に行ったら、見たことのないファンタ レモンを売っている!(当時関東にはなかった)とにかく京都にいる間、俺は飲んだねファンタ レモンを! 旅行中の小遣いが上限千円って決まっていて、家族への土産とかふっ飛ばしてファンタ レモン三昧! 後で修学旅行の思い出を作文に書けと言われて参ったね。だってファンタ レモンのことしか覚えてなかったんだもん。

炭酸と言えばある日、同じクラスの“おぐちゃん”の家にみんなで遊びに行ったら、ひとり1本キリンレモンが出てくる大盤振る舞い! でも飲もうとしたら、おぐちゃんが変なことを言い出した。

「キリンレモンってビンを置いたまま飲めるんだぜー!」

栓を抜いたキリンレモンのビンの口に、割りばしを突っ込み上下にシャカシャカ、すると滝のように泡があふれ出す。すかさず口をつけて吸い「どうだ!」と得意気なおぐちゃん。ってかその方法で飲めと? しかしキリンレモン提供元のおぐちゃんに逆らえない。みんなで割りばしを突っ込みシャカシャカ、泡があふれてグビリ。シャカシャカ、グビリ。シャカシャカ、グビリ…耐え切れず、ついにひとりが言った。

「普通に飲んじゃダメ?」
「…なんだとお前!?」

普段は温厚なおぐちゃんが、初めて見せた鬼の形相。ジュースは人を狂わせる――キリンレモンを飲むと今も、おぐちゃんの一瞬の狂気を俺は思い出す。

最近は自販機もコンビニも、飲み物といえばお茶と水ばかりで夢がなくなったね。ジュースも手軽に買えるし、今の子たちはどう思いながら飲んでいるのか。ファンタ レモンに全所持金をつぎ込んだあの情熱は、もうないかもね。とりあえず俺は、もうすぐ北海道出張だから、カツゲンとリボンナポリン飲んでくるよ。やめられないねジュース。もう52歳なのに(汗)。

文:カベルナリア吉田

【「昭和40年男」vol.45(2017年10月号)掲載】

昭和40年生まれの紀行ライター。普段は全国を旅して紀行文を書いている。この1月に新刊『ビジホの朝メシを語れるほど食べてみた』(ユサブル)出版したからヨロシク! 去年出した『おとなの「ひとり休日」行動計画』(WAVE出版)、『突撃! 島酒場』(イカロス出版)、『何度行っても変わらない沖縄』(林檎プロモーション)、『狙われた島』(アルファベータブックス)全部ヨロシク! 2月17日には東京・世田谷の「かなざわ珈琲」で手料理つきバレンタイントークショーやるから来てくれよな!

『昭和40年男』定期購読のご案内

最初のコメントをしてみませんか?

お気軽にコメントをどうぞ

メールアドレスは入力しても公開されることはありませんのでご安心下さい。