【懐かしの名盤】ザ・バンド『Music From Big Pink/ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(6/13)

不定期連載企画、懐かしの名盤ジャンジャカジャーンのシリーズ第9弾は、ザ・バンドでお送りしている。1976年に事実上解散しているから、リアルタイムで聴いていたという昭和40年男はごくごく稀だろうが、ロックの歴史を紐解いてみて興味を持ち、後追いで聴いた方は多いだろう。もしこれまで聴いたことがないのなら、ぜひこのアルバムに手を伸ばしてほしい。心にじっくりと響き渡るような音が広がり、40年以上前のデビューとは思えない素晴らしい世界を知ることになる。

8年にも及んだ長い下積み生活を経て、1968年にデビューアルバムがリリースされた。僕たちはまだ3歳で国内ではタイガースやテンプターズなどのグループサウンド全盛の頃で、最新号の表紙を飾ってくれた『あしたのジョー』の連載が始まった年だ。ロックシーンに大きな影響を与えた『ウッドストック・フェスティバル』の前年で、ロックシーンが沸点を迎えようとしていた。ロックミュージックが産声を上げ、若者に影響を持ち始めてその力を高めていったロックシーンの第1期が、ウッドストックでひとつの終焉を迎えたと僕はとらえている。平和と愛をテーマに40万人とも50万人ともいわれる動員を記録したこのフェスを境に、ロックミュージックはビッグビジネスへと舵を切り、第2期発展時代へと以降した。69年までの第1期はロックがただ純粋にロックだった時代とでもいえばよいだろうか。その仕上げとなる3年は、おそらく現在までつづくシーンの中で最も多くの、そして偉大な傑作がズラリと並ぶ。ざっとあげてみよう。ビートルズは67年に『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、68年に『ホワイト・アルバム』、69年に『アビイ・ロード』とまさに絶頂期で、続けて翌年がラストアルバムとなっている。ストーンズもこのコーナーで大いに語った『ベガーズ・バンケット』と『レット・イット・ブリード』を68、69年に立て続けに出し、これまたここで大騒ぎしたレッド・ツェッペリンはファーストとセカンドを69年にリリースしている。ジミ・ヘンドリックスの『エレクトリック・レディ・ランド』、ドアーズの『ハートに火をつけて』、ジャニスの『チープ・スリル』、フーの『ロックオペラ』などなど、この3年間にギュッと詰まってリリースされている。こんな作品群の中で、ザ・バンドのデビュー作は違和感があるほど地味な存在だ。またこの頃は、サイケデリックムープメントのまっただ中で、その意味でもこのアルバムを引っさげてのデビューは、まるで時代の空気を無視したかのような作品である。

ザ・バンドの音は、伝統的なアメリカ音楽の掛け合わせが基礎となっている。ブルースとカントリー、リズム&ブルース、ロックンロールをミキサーにかけて、いったん冷蔵庫で冷やしてかためた上に、ラグタイムとかデキシー、クラシックジャズなんかでホイップしたクリームを塗って、後は個々の音楽的なインテリ部分をパラパラとふりかけてある感じ。そんな音が『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』からあふれ出てくる。我が道をただまっすぐ突き進んでいく職人集団で、彼らが目指すのはただひたすらリスナーが喜ぶ特上の音楽である。長いバックバンド生活やどさ回りで培った精神はそこにあった。(つづく)

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