深夜食堂と冷やしたぬきそば。

昨今の人生に何かが足りないと、心の奥底に渇きを感じていた。そしてつい先日、僕に気づきが降りてきた。「冷やしたぬきじゃーっ」と。その数時間後の昼休みに出かけてきたのは、会社の近くで港区の芝商店街にあるおっさんパラダイスの「やぶ砂」さんだ。江戸が誇る3大そば屋ブランド、更科・薮・砂場のうちの2つをミックスして名乗っているなんて、ずいぶんと豪勢なそば屋じゃないか。席に座るなり「冷やしたぬき大盛りでください」と叫ぶように伝えた。

 

待つこと数分、出てきた出てきた。美しい冷やしたぬきである。冷やしたぬきってメニューは、揚げ玉とそば、薬味とつゆ以外の具は店それぞれに個性がある。そのバリエーションというか自由度は温かい方よりも大きく、好みが分かれたりするのが楽しい。値段も高くなる店が多いのはちょっとネガティブながら、でもやっぱり夏にこの一杯は欠かせない。

 

現在発売中の40年近くなる僕の愛読書『ビッグコミックオリジナル』の最新号の巻頭カラーでは、冷やしたぬき論争の『深夜食堂』が描かれている。そばでなくうどんがいいという人がいて、この章の主人公の女性はダメ出しをする。さらにこの女性は別の店で出てきた一杯にワカメがのっていたことに激怒している。うーむ、僕に言わせればこれはさほど問題ではないのだが、何より彼女が許せないとしたのがそばつゆがかかって供されることだった。これには激しくシンパシーながら、「やぶ砂」さんはかけて出す店なのだ。これに目をつぶれるくらい、どっしりとした昭和がゆえに僕は通うのである。

 

こうして全国的な雑誌で取り上げられていることで、ふと気になることがあった。関西でこのメニューはどんな存在だろうか。35年前に大阪に住んだ時、「東京では天かすで金とるやろ」とバカにされた。するってえと、たぬきそばの値段が高いのはアウトだろう。さらに向こうはうどん文化だから、冷やしたぬきそばが存在しないのかもしれない。緊急事態が落ち着いたら、読者の集い・秘密基地の大阪開催の幹事会があるから確認することにしよう。冷やしたぬきが食いたい暑い季節に是非行きたいものだ。つまりは、早く落ち着けと願っているのであ〜る。
 

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