ライブとテクノロジーがもたらした音楽の大変革とは? 大阪万博〜コロナ後までじっくり考察。

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2007年マドンナの移籍が、圧倒的な変化をもたらした

 
もう、CDじゃないかも、とリスナーみなさんの気持ちは変化していきました。

そんな時だって、アーティストは我々の期待に応えてくれたのです! 
 


 
もともと音楽業界はパッケージで売っていたわけです。昔はSPであり、LPになり、CDになり。それをいかに売るかということだったのです。

1998年にピークを迎え、それ以降のインターネットの普及によってパッケージメディアは下降していきます。それに対してライブでの収益はどんどん伸びています。2013年になるとコンサートプロモート協会に加盟している団体のライブ収益だけで、CDの売り上げを超えています。おそらくマーケット全体としては、2013年以前に超えてしまっていたのでしょう。

この背景に何があったのかというと、音楽業界の大変革があって、かつて6大メジャーと言われていたレコード会社が3グループに統合されていきました。これは、前述したナップスターがもたらした現象で我々が気づいてしまった=従来のヒットチャート中心のビジネス様式が構造的にもたなくなってきている、ということなのです。一方で、それを補って余りあるものとして成長していたのが、ライブビジネスだったのです。

2007年が境目だったんですね。業界的に考えると、マドンナの移籍がとても大きな出来事であったと私は考察しています。

マドンナは1992年にワーナー・ミュージックからデビューし、2007年にコンサートプロモーション会社であるライブネーションへ移籍し新たな契約を結びました。

▲マドンナ『スティッキー・アンド・スウィート・ツアー』CD+DVD (2010) / ライブネーションとのレコード契約のもとで発売された最初の作品。生産・流通は古巣のワーナー・ミュージック・グループが担当

これが何を意味するかと言うと、ライブネーションは、マドンナ移籍直後の2010年に、全米のトップアリーナ100のうち80施設のチケットを取り扱うチケットマスターを買収したコングロマリット (巨大複合企業) で、ライブ関連ビジネスを川上から川下まで全て押さえた、ライバル会社がいないとまで言われている企業なんですね。そこに移籍したということは、マドンナは自分の主軸をライブに移したのだ、という象徴的な出来事だったのです。ライブを起点に自分のブランドイメージを表現していく方向へ転換した方がはるかに効果的であると…。日本では360°契約と呼ばれていますが、ここに最初に踏み込んだのがマドンナだったのです。

2007年には他にも動きがあって。プリンスがアルバム『プラネット・アース』を発表。イングランド、アイルランドの新聞『Mail on Sunday』紙に付録としてこのアルバムを付けて無料配布するという実験的手法をとったのです。ロンドンのO2アリーナで開催された21回連続公演でも無料配布され、このアルバムと公演はとてつもない話題となったのです。21日の全日程で、2万人収容のチケットは完売という現象が巻き起こりました。

▲プリンス『プラネット・アース』(2007) / このアルバムは、ライブのチケットと共に無料配布されるプロモーションもなされ、2007年にオープンしたばかりだった、あのO2アリーナでの連続21回公演がソールドアウト。同時に無料の音楽配信も行われた

プリンスの考えは、マドンナの考えと同じですよね。CDでの販売に代わって、極端な話、デリバリーのコストさえ誰かが負担してくれるのなら、楽曲は無料で公開してもいい。連続でライブ公演する自分の姿勢こそファンが求めているもので、そこに価値を生み出そうという構造に大転換したのです。

同じく2007年にレディオヘッドが発表したアルバム『イン・レインボウズ』では、ウェブ配信ダウンロード盤が発表され、なんと価格はリスナーのみなさんが自由に決めてくださいという前代未聞の試みがなされました。一方、通常の流通盤もリリースされ、UK、USチャートで1位を獲得しました。極端な話、無料でダウンロード可能だったにもかかわらず、発売から1年間でCD盤のみでも175万枚のセールスを記録したのです。

▲レディオヘッド『イン・レインボウズ』(2007) / 7作目となるこのアルバムは、ダウンロード版では、リスナーが価格を自由に決定でき、しかもインターネット上での、レコード会社や流通の中間マージンが発生しない形態で販売された。リスナーにとってはウェルカムながら、様々な論議を生み出した

音楽とは何を伝えるものなのか? リスナーは何に価値を求めているのか? アーティストの姿勢やそこから発せられるメッセージにこそ価値があるのではと提言した、とても重要な出来事となったのです。

結果、音楽ビジネスの中心はライブへと転換していったのです。リスナーに対しては音楽を、業界に対しては音楽産業を、多様な視点から捉えることを促し、さらには嗜好の個人化、細分化をも加速したのでしょう。これは、今の時代の消費者の音楽に対する捉え方に繋がっていますよね。大きな影響を及ぼしているのです。
 
 
(次ページへ続く → アフターコロナの時代に向けて、耳利きキュレーターの出現を求む [5/5] )

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