誰もが名車と認めるGSX1100Sカタナはデビュー当時“世界最速”をほこるパフォーマンスで俺たちを魅了した。そして新たに生み出された新型KATANAはレースで勝つために設計されたスーパースポーツの血統を色濃く引き継ぐエキサイティングな乗り味に仕上がっている。

“カタナ”の魅力はデザインのみにあらず

俺たちの世代が2019年に登場した新型KATANAを語る上で欠かせないのが、1981年にデビューしたGSX1100Sカタナ(以下、ファーストカタナ)の存在だ。というのも、ファーストカタナがデビューしたときはスズキのフラッグシップとしてクラスでもトップレベルの性能を誇っていたからだ。空冷4気筒エンジンから絞り出される最高出力は111馬力。最高速度は200km/hを軽々と越えた。そのハイスペックと近未来的なデザインの組み合わせは、俺たちの心を揺さぶるに十分なもの。

しかもファーストカタナの動的な魅力はそれだけじゃなかった。ディスクローターにスリットが入ったトリプルディスクブレーキ、ブレーキング時にノーズが沈み込みすぎて車体姿勢を崩すのを抑制するアンチノーズダイブシステム、工具を使わずにプリロード調整できるツイン・リヤショックなど、先進的な装備も数多く搭載していた。そして写真とスペックを見て盛り上がっていた俺たちは実車を見てもう一度驚くことになる。

フロントカウルからガソリンタンクにかけてのシャープなラインは写真で見る以上に複雑な曲面で構成されていて、艶っぽさを感じた。そしてエンジンの幅にも驚いた。またがるとガソリンタンクより大きく張り出しているのが見えるのだ。さらに左右のメガホンマフラーから吐き出される図太い排気音。「これがリッターバイクか…」。自主規制によって国内では750㏄までのバイクしか販売できなかった時代。その迫力に俺たちは息を呑んだ。

だがしかし、その栄光は長く続かなかった。なぜならすぐにレーサーレプリカブームに突入したからだ。世界グランプリの現場からそのまま飛び出してきたかのようなフルカウルに包まれた車体には、アルミフレームや倒立サスペンション、鋭く吹け上がる水冷エンジンなど最新技術がこれでもかと投入されていた。1年前のバイクは「型遅れ」と言われるほど動きが早かった時代。ファーストカタナの流麗なスタイルもその波にはなすすべもなかった。正直に言おう。そのころ俺たちも華やかな最新レーサーレプリカの話題で熱くなり、ファーストカタナの印象が薄れていたことを。スピードやパワーがバイクの価値を決めるといっても過言じゃなかった時代。若気の至りだと流してほしい。

しかし世の中にフルカウルのバイクが増えていくに従って、ファーストカタナのオリジナリティあふれるスタイルが再び俺たちの意識の中に浮かびはじめた。“やっぱり乗りたいのはファーストカタナだ”。その思いは日増しに強くなり、ついに一部のライダーは限定解除の難関を越えてファーストカタナのオーナーとなった。しかし高性能に磨きをかけたレーサーレプリカに慣れたライダーにとって、フラッグシップとはいえ10数年前のバイクの乗り味は異次元の連続。それを“走らない・曲がらない・止まらない”と酷評する人もいたが、しっかりと整備されたファーストカタナを時代にあわせた乗り方で扱えば、大きな不満を感じないことをお伝えしておこう。

そして2019年に登場した新型KATANAである。デザインという切り口で見るとファーストカタナとの共通点があることは前回お伝えした。ではパフォーマンスについてはどうだろう。俺たちはあのころと同じ“熱い気持ち”が持てるのだろうか。

スーパースポーツのパフォーマンスをストリート向けに昇華した“新型KATANA”

水冷直列4気筒エンジンやアルミ製のフレーム、スイングアームなどはGSX-R1000(K5)の技術を色濃く継承している。GSX-R1000シリーズといえば幾多のスーパースポーツの中でも“最強”との声が大きいモデル。その技術が大量に導入され、さらにメインステージであるストリート向けにチューニングされているとあれば動力性能に不満があろうはずがない。

注目すべきはエキゾーストシステムだ。4in2in1の集合形式でキャタライザーと大型のエキゾーストチャンバーを備え、ショートサイレンサーを実現。サーボ制御のバタフライバルブが内蔵されていて全域での燃焼効率を高めている。なによりうれしいのがエンジンをかけた瞬間に響く図太い重低音。大排気量車らしさを感じさせるが、しっかりと調律され上品さもともなっている。俺たちの心に火を付けるには十分なサウンドだと言えよう。

足まわりも充実している。サスペンションはフロントに乗りやすさを追求できるフルアジャスタブルタイプの倒立フォークを採用し、ブレーキは310mm径のフローティングディスクと定評のあるブレンボ製キャリパーを組み合わせる。単なる走行性能の追求だけでなく安全性もしっかりと考慮されていて、高精度のABSシステムや路面の状況などに合わせて介入度を任意で変えられる3モードのトラクションコントロールが装備されている。そう、細かい部分まで見れば見るほど魅力的なモデルであることがわかるはずだ。

詳細は以下の部分カットとそのキャプションをぜひとも参考にしてほしい。そして、それらを見れば新型KATANAのパフォーマンスが、俺たちの心をガッチリと掴むのに十分なモノなのがわかるはずだ。

研ぎ澄まされたフォルムの内に秘める現代トップレベルのパフォーマンスに刮目せよ

SUZUKI 新型KATANA 左サイドビュー
21世紀に生まれた新型カタナは、シャープなフォルムのなかにスーパースポーツの血統を受け継いた車体回りや装備を持っている。スタイルのみならず、動力性能も現代のトップレベルなのだ
SUZUKI 新型KATANA 右サイドビュー
ショートサイレンサーや太いリヤタイヤがボリュームを感じさせる。今どきのバイクらしく、ABSやトラクションコントロールシステムなどの電子制御システムも装備している

スズキ 新型KATANAの直列4気筒エンジン
スーパースポーツとしてはロングストロークを持つGSX-R1000(K5)の直列4気筒エンジンをストリート向けにチューニング。ハイスペックを市街地で自在に扱える特性とし、エキサイティングな走りを可能としている
スズキ 新型KATANAのSCEMアルミシリンダー
シリンダーにはスズキ独自のSCEM(Suzuki Composite Electrochemical Material)メッキシリンダーを採用。フリクションロスの大幅な低減を実現しつつ、高い放熱性と耐摩耗性、気密性を確保している
スズキ 新型KATANAの各シリンダー下方にあるベンチレーションホール
各シリンダー下方に気筒間をつなぐベンチレーションホールを追加。ピストンが下降する際に発生する圧力を隣のシリンダーに逃がすことで、ポンピングロスの低減や燃料消費量の低減に役立っている
スズキ 新型KATANAのスリッパークラッチシステム
急激なシフトダウン時など、急激なエンジンブレーキによるリヤタイヤのロックやホッピングを抑制するスリッパークラッチを装備。同時にリヤタイヤから伝わるバックトルクを逃す役割も果たしている
スズキ 新型KATANAのピストンリング
ベースとなった直列4気筒エンジンは、スーパースポーツとしては珍しいロングストロークの設定。そのため小型の燃焼室が実現し、圧縮比の最適化とフラットトップピストンの採用が可能となった。ピストンとピストンリングは強度を損なうことなく軽量化されている
スズキ 新型KATANAの10ホールインジェクター
ガソリンを微粒化する10ホールフューエルインジェクターを装備。エアクリーナーから流れてくる空気にむらなくガソリンを混ぜることで、高い燃焼効率と燃費効率の向上に寄与している
スズキ 新型KATANAのローRPMアシスト機能
発進時や低回転走行時にエンジン回転の落ち込みを制御するローRPMアシスト機能を装備。エンジン回転数、アクセル開度などの情報を用いて作動するシステムで、スムーズな発進や渋滞時の低速走行、Uターン時に威力を発揮する
スズキ 新型KATANAの3モードトラクションコントロール
5つのセンサーからの情報によりリヤタイヤのホイールスピンを検出すると、速やかにエンジン出力を低減しリヤタイヤのスリップを抑制するトラクションコントロールシステムを搭載。介入度は3段階から選べ、オフにすることも可能
スズキ 新型KATANAのKYB製倒立フロントフォーク
KYB製倒立フロントフォークのインナーチューブ径は43mm。伸側/圧側ダンピング、スプリングプリロードが調整可能というフルアジャスタブルタイプであることも、新型KATANAが走りを重視している証拠だ
スズキ 新型KATANAのブレンボ製対向4ポットラジアルマウントキャリパー
ブレンボ製対向4ポットキャリパーは、スーパースポーツモデル同様フロントフォークにラジアルマウントされる。取り付け剛性が高くなるため、レバータッチのよさと幅広いコントロール性が望める
スズキ 新型KATANAのフローティングローター
ディスクのローターは310mm径のフローティングタイプ。ローターはシンプルな丸型で、冷却とパッド表面のクリーニング効果があるホールが数多く開けられている
スズキ 新型KATANAのABSユニット
インナーローターの内側にあるスリットが入った円盤とABSセンサーが装着されている。ABSは車輪1回転あたり50回の車輪速度を監視し、ロック傾向を感知すると作動する。ABSユニットはコンパクトなボッシュ製。
スズキ 新型KATANAのラジアルポンプマスターシリンダー
マスターシリンダーはレバーを握る方向にピストンが配されたラジアルポンプタイプを採用。より繊細なブレーキコントロールを可能としている。ダイヤル操作によりレバーの距離を6段階で調節できる。
スズキ 新型KATANAのアクセルグリップ
アクセルワイヤーを巻き取るプーリー部にも工夫がある。通常は真円だが、新型KATANAは部分的に巻取り部のカタチを変えて異径としている。アクセルを開けはじめたときの微妙なコントロール性を高めているのだ。
スズキ 新型KATANAのイージースタートシステム
ワンプッシュでエンジンを始動できるスズキイージースタートシステムを装備。セルボタンを軽く押すだけで一定時間セルモーターを回転させ、始動を認識すると32-bit ECMがモーターの回転を停止させる。
スズキ 新型KATANAのクラッチワイヤーの調節機構
一般的なバイクの場合、クラッチワイヤーの遊びの調整はダブルナット形式なので工具が必要。しかし新型KATANAはひとつのダイヤルを板バネで保持する方式なので工具なしですぐに調整できる
スズキ 新型KATANAの専用アップハンドル
ヒジを横に出すストリートファイター的なポジションになるバーハンドルを採用。コントロール性とダイレクトな操作性を両立させるため15種類の試作品から選ばれた。クルージングから攻めのライディングまで幅広く対応する
スズキ 新型KATANAのインナーガソリンタンク
エッジが効いたガソリンタンクは、ファーストカタナとは異なり樹脂製のカバー。内部には大容量のエアクリーナーボックスが収められていて、ガソリンタンクは後部からシート下にかけて配置されている。容量は12ℓ
スズキ 新型KATANAのエアクリーナー内にあるパーテーションプレート
エアクリーナー内にエアを導入するパーテーションプレートを設置。吸気効率を高めると同時に吸気音のチューニングを行なっている。そのため加速時には排気音とあわせてライダーの気持ちを盛り上げる効果がある
スズキ 新型KATANAのアルミフレーム
ステアリングヘッドからスイングアームピボットまで直線的に結ばれている形状の高剛性のアルミ製メインフレームを採用。新技術によりベースとなったGSX-R1000よりも軽量に仕上げられている
スズキ 新型KATANAのスイングアーム
装備されている左右非対称のアルミ製スイングアームはGSX-R1000から引き継いだ高剛性タイプ。スーパースポーツの鋭い走りを支えるだけの性能を持っているので、ライダーは高い接地感を得られることだろう
スズキ 新型KATANAのショートサイレンサー
スイングアーム付近に出口があるショートサイレンサーは、ヒートガードからテールエンドまでツヤ消しブラック。ファーストカタナのプロトタイプに装着されていたテルミニョーニ製の集合マフラーを彷彿させる仕上がりだ
スズキ 新型KATANAのエキゾーストシステム
1番・4番のヘッダーパイプと、2番・3番のヘッダーパイプをそれぞれイコライザーパイプで連結。排気パルスを利用して低中速域の出力アップをねらった4-2-1形式のエキゾーストシステムを採用している
スズキ 新型KATANAのキャタライザー
4本のエキゾーストパイプが集合した直後にキャタライザーを配置。排気ガスが内部を通過する際に化学反応させることで、よりクリーンな排出ガスにして高い環境性能を実現している
スズキ 新型KATANAのリヤショック
路面追従性が高いリンク式のモノショックユニットを装備。専用のセッティングがほどこされ、さまざまな路面状況で軽快かつ安定感のある特性を発揮する。伸側ダンピング、スプリングプリロードの調整が可能となっている
スズキ 新型KATANAの軽量アルミホイール
6本スポークがスポーティなイメージの軽量アルミ製キャストホイールを採用し軽快なハンドリングを実現。装着されているタイヤは幅広いシーンで使えるダンロップ・ロードスポーツ2
スズキ 新型KATANAのフル液晶ディスプレイ
フル液晶ディスプレイはスピードやエンジン回転数以外に多くの情報を表示する。ギヤポジションやトラクションコントロールの作動状況、シフトアップタイミング、点検時期の通知などだ
スズキ 新型KATANAのLEDヘッドライト
KATANAのイメージを受け継いだシャープなカウルに内蔵された角型のヘッドライトは主流となりつつあるLEDタイプ。白い輝きが現代風だ。センターのブリッジの左右に光源があるのも特徴
スズキ 新型KATANAのLEDリヤコンビネーションランプ
テールランプとウインカーが一体となったコンビネーションランプには、視認性が高いLEDを採用。クッキリとした光で後続車にアピールすることで安全性を確保している
スズキ 新型KATANAのアルミステップバー
ギザギザの滑り止め加工がほどこされたアルミむき出しのステップバーを採用。表面にラバーがないのでダイレクトに荷重がかけられ、高い車体コントロール性を実現している
スズキ 新型KATANAのシート表皮
KATANAシリーズらしい切り返しや3本ラインが施されたシート表皮は適度に滑りやすい素材でできている。そのためロングツーリングからスポーティな走りまでカバーしてくれる。シート高は825mm