東海の暴れん坊。

さあ、鈴鹿サーキットへと出かけるぞ。まずは明日の決勝取材でお世話になるチームに挨拶回りして、その後62歳の現役ライダーである水谷勝さんが主催する『風の会』をレポートする予定だ。ちょっとこれについて触れておきたい。

この活動の元になったのは、水谷さんの実体験からだそうだ。ある日、下半身の不自由な少年からバイクに乗ってみたいとの願いを聞き、タンデムシートに固定して乗せた。そのときに奇跡が起こった。動かないはずの足がグッと締め付けたのだ。ならば下半身が不自由な出来るだけ多くの人に乗ってもらおうと、毎年参戦している鈴鹿8耐の決勝前日に、パレード形式でサーキットを一周しようと思いついた。協力者を募り、もう今年で10回目となる恒例行事となった。バイクメーカーがバイクを提供して、さまざまな団体がサポートや当日のオペレートを手伝い、水谷さんの声がけで集まったプロライダーたちがバイクを運転する。中には翌日に決勝を控えたライダーも走る。初めてのバイク体験に緊張の面持ちでコースに入っていく参加者たちは、帰ってくると本当にいい顔になっている。奇跡は起きなくとも、大きな喜びに包まれるようである。帰ってきたライダーと参加者たち、スタッフ全員の記念撮影を行い取材終了となるのだ。

驚異的なのは62歳の水谷さんはこの大仕事を終えた翌日、決勝を走るのである。革ツナギを着て、炎天下のコースを周回するその姿は感動そのものだ。実は引退の危機があった。テスト中の転倒で首の骨を折る重傷で、生死をさまよった。そこから見事に復活して、去年は決勝を走ったのである。10年近くおつきあいをさせていただいている僕にとって、それは感慨深いものがあった。ラストの走行を終えたレース終了間際の水谷さんに「ファインダー越しに走っている水谷さんを見られて本当によかったです」といいながら涙があふれ出てしまった。その涙を見た水谷さんも泣き出し、まだレースは終了していないのに、2人の大人はみっともない姿をさらしたのであった。

バイクブームのころ、レースに興味を持った方なら『東海の暴れん坊』の異名を持つ彼を知っているだろう。そして今も走っていることを知ったら、さぞ驚きのことだろう。62歳で踏ん張る姿にエネルギーをたっぷりもらうのである。

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