悪魔の強制食事会「昭和40年男の悲惨な戦い」

昭和40年男の悲惨な戦い

昭和40年男の少年時代は、決して楽しいことばかりじゃなかった。今思えば笑っちゃうようなことでも、俺たちは真剣に悩み、戦っていた! ここではホロリと苦い「悲惨な戦いの記憶」を通じて、昭和40年代&50年代という時代を振り返ってみたい。

グリーンピースF田君と
トリカワM子ちゃん。

給食。この2文字に怒りの涙を流した昭和40年男も多いだろう。最近の給食は美味いらしいが、俺たちが食べた(食わされた)給食は、トンでもなくマズかった!
子供の大嫌いな野菜が大量に入っていた。ニンジン、ピーマン、モヤシ! ケチャップ味のシチューにもモヤシ、食えるか! そして段ボールみたいにパサパサのパン! それをケンチン汁やヒジキの煮物と一緒に食べろというのだから、まさに拷問だった。
しかも当時は給食を、残しちゃいけなかった。担任の女教師の機嫌が悪い日は(今思えば「あの日」だった?)5時間目になっても残したオカズを食べろと強要された。「食べなさい!」と目を吊り上げる女教師、そこまで駆り立てるものは何だったのか?
悪夢だった。地獄だった。俺も相当苦労したが——最悪の悲劇はある日、同級生のF田君とM子ちゃんの身に降りかかった。

その日のオカズはクリームシチュー。地獄の給食の中ではオアシス的なメニューだったが、しかしF田はシチューの中のグリーンピースが、M子は鶏の皮が嫌いだった。そしてその日の女教師は特に不機嫌で、ふたりは5時間目になっても放免されなかった!
机を並べて隣り合うF田とM子、ふたりの前にはアルマイトの皿に残ったグリーンピース、そして鶏の皮。
「食べるまで授業は始めないわよ!」
女教師の無慈悲な指令に、同級生たちの罵声が重なる。「食べちゃえよお!」「食べろよお!」何というプレッシャー、だが! さすが男子、F田は皿に先割れスプーンを突っ込むと、グリーンピースをガーッと口に流し込んだ。頬っぺたがリスのように膨れ、一瞬吐きそうな表情も見せたが、牛乳で流し込むと見事に飲み込んだ。完食!
さあこうなると、罵声はM子に集中する。「F田は食べたぞお。M子も食べろよお!」「食べろよお!」「食べろよおおっ!」。男子がM子を囲み罵声の嵐。すると、「わあああああん!」。かわいそうに、M子は机に突っ伏して号泣してしまった。女教師もさすがに「仕方ないわね授業にしましょ」と根負けしたが、そもそもイタイケな少女を給食ごときで、なぜここまで追い詰めたのか。今でも理解できない。
そんなわけで、当時の給食は地獄だった。大メシ食らいの俺だが、小学校6年間で給食を完食したことは、ただの1度もない。

学校給食は戦前もあったそうだが、全国規模で本格的に始まるのは戦後の昭和22年(1947年)。食糧難で栄養不足に陥った子どもたちのために、タンパク質やカルシウムなど栄養バランスのいいメニューが提供された。
俺たちの給食は「地獄のミルク」脱脂粉乳こそ終焉に向かっていたが、まだ戦後を引きずり「味よりも栄養優先」の時代。そして「生徒に給食を完食させることが務め」と信じて疑わない教師がいたから、それはもう大変だった。今は子供のアレルギーに合わせて献立を配慮したり、好きなものだけ食べられるバイキング給食もあるようだが、当時からすれば夢のようだ。

さてF田とM子の話には、トンでもないオチがある。鶏皮号泣の悲劇を誰もが忘れたある日、M子は休んでいた。と思ったら2時間目あとの休み時間に、女教師に連れられて教室に現れた――真っ赤に泣きはらした目!
女教師「みんな、突然だけどM子ちゃんは転校します」
ええーっ! そんな急に、それも今すぐ?
M子「みんな(ひっく)今まで(ひっく)どうもありがとう(ひっくひっく)」
呆然とする俺たちの前からM子は突然去った。その後の大人たちの噂によれば、借金取りに追われ家族まるごと夜逃げしたらしい。
数日後、男子の誰かがボソッと言った。
「M子、F田のこと好きだったらしいよ…」
M子ちゃんがその後どこで、どんな人生を送ったかは全く知らない。今もクリームシチューを食べると、俺はM子ちゃんの涙と、地獄の給食を思い出す。

 

文:カベルナリア吉田

【「昭和40年男」vol.34(2015年12月号)掲載】

カベルナリア吉田/昭和40年、北海道生まれの紀行ライター。普段は沖縄や島を歩き、紀行文を書いている。新刊『何度行っても変わらない沖縄』(林檎プロモーション)と『突撃!島酒場』(イカロス出版)絶賛?発売中! さらに秋には珍しく、シニア向けの東京お散歩本も出版予定。近著『狙われた島』(アルファベータブックス)もヨロシク。新宿Naked Loft1224日(!)にトークショー「日本のムカつく旅」開催するから来てねー! 175cm×86kg、乙女座O型

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