昭和40年に生まれた、いわばタメ年の商品やサービスを我々の思い出と共に紹介するのがこの連載記事である。今回は「缶入りコカ・コーラ」。いつでもどこでもコーラを味わえるようになったのは、缶入りの普及が大きかった。
「いつでもどこでも」を実現。
ゴトンと、重量感のある音がした。今日、公園に置かれた自動販売機で缶入りコカ・コーラを買った。コインを入れ、ボタンを押し、取り出し口に出てくる時の、この感じ、変わらないな。ペットボトルの少し柔軟な音とはどこか違うんだよ。
缶コーラ飲料のうち、昭和40年8月に国内第1号として発売されたのが、この缶入りコカ・コーラだ。250㎖が50円で、最初はオープナー付きで売られていた。飲み口を缶切りのようなオープナーで開けて(もちろん反対の位置に空気穴も)飲む形だった。
日本コカ・コーラ社が缶入りを発売した背景には、日本人の余暇に対する意識変化があったという。週末や休日、家族で旅行へ行ったり、ドライブへ行ったりする人たちが増え始めたため、ビン入りより手軽に持ち運べるものが求められるようになったのだ。確かに、東海道新幹線開通、高速道路網の拡大、自家用車の割合上昇などの時期と一致する。缶入りコカ・コーラは、いつでもどこでもコーラを飲める機会を提供したのだ。
筆者も子供時代、遊びに行って自動販売機で買うのも缶だし、出かける時に持っていくのも缶入りだった。たまに母親がスーパーで買ってくる時も、ビンではなく軽い缶だった。ではビン入りにどこで出会うかというと、食堂やラーメン屋など、外食した時だ。父親がギョーザと共にビールを飲み、私はラーメンをすすりつつビン入りコカ・コーラをコップに注いで飲んだ。
缶入りによって、ずいぶん身近になったコーラ飲料だが、それでもまだどこか特別な飲み物だった。小遣いの少なさという切実な問題もあったが、親の監視の目も厳しかった。甘いものを飲み過ぎてはいけないという指導があったうえ、コーラ飲料を大量に飲むと骨が溶けるという噂まで聞かされてもいた…(ちなみに、骨が云々という都市伝説、今も流布しているようで、日本コカ・コーラ社ホームページの「よくあるご質問」にも、そうではないことがしっかりと書かれている)。修学旅行などで出かけた際は、そういった監視の目が緩み、解放感のなかで缶コカ・コーラを飲むことができた。
82年には、ペットボトル入りのコカ・コーラが発売され、清涼飲料業界全体でもペットボトルが主流になっていったのはご存知のとおり。容器別シェアで見ると、約6割がペットボトルとなっている(全国清涼飲料工業会調べ ※2013年当時)。
ただ、缶のプルタブを開ける時の感覚、冷たさが直接伝わってくる缶の手触りなどは今も捨てがたい。それに、野外でバーベキューをしたりすると、缶でゴクゴク飲むコーラ飲料はなぜかぴったりくる。あるいは、お祭りで氷水入りのクーラーボックスに入った缶コーラを、腕を突っ込んで取り出し、たこ焼きを食べつつ飲むのもいい。同じコーラでもペットボトルとは飲み味が違う気さえする。だから、缶入りを選ぶ。
今でも缶入りコーラ飲料はレジャーの場が似合う気がする。さらに、あえて缶入りを選びたくなるという別の意味での “特別感” も獲得しつつある気がする。
取材協力:日本コカ・コーラ
文:舘谷 徹/昭和40年7月、埼玉県生まれのライター・脚本家。広報誌やWeb記事、ドラマやアニメの脚本を執筆。プラネタリウムで活動する市民グループにも参加中