ボルト選手に感謝。

引退とはどんな気持ちなのだろうと凡人は思う。スタートへとテンションを上げていくウサイン・ボルト選手をテレビで見つめながらやはり凡人は近寄れず、せめてラストレースの証人になろうと食い入るように見守った。まさかだった。

華と光がある選手だ。俺たち世代での陸上選手で、強さだけでなくこれほどの華と光をまとった選手がいただろうか。日本人が日本人を見てという条件付きならば、マラソンの高橋尚子選手はバキバキに光っていた。世界中の陸上ファンからという点ではカール・ルイス選手がいる。並ぶ、もしくは超えたかもしれないボルトだ。

陸上はそもそも地味なスポーツだ。人類の限界をただ愚直なまでに推し進めていくのだから、そりゃー地味になるのは仕方あるまい。球技や僕が間近で接するバイクレースなんかは、そのツールとの関係性で大きな魅力を醸しだせることが多々ある。華のあるプレイってのがあり、陸上に比べれば競技そのもので見るものを惹きつける。比べて陸上はヨーイドンのみだ。俺たちがガキの頃だって、モテる目的で陸上部に入るヤツはいなかっただろう。ストイックに強さを追い求める姿が結果的にモテるってな感じだ。

華とか光ってなんだという答えが、自然と滲み出てくるボルトの一挙手一投足にある。目を釘付けにされ、たった10秒足らずの地味な競技をスーパーエンターテインメントに仕上がる。自然としたが、サービス精神が内包されているから心奪われてしまう。アスリートの中には観衆を軽視する選手も少なくない。そこにアスリートの本質はまったくないが、ボルトには見ている者のためというスピリットがあふれている。前人未到の怪物でありながら、ファンに自然に寄ってきてくれる姿勢にいつも涙していた。

今日のファイナルで勝利して、そのサービスをたっぷり受けたかったのが本音だ。号泣したかったが、まさかのアクシデントにしばらくショックを受けたままだったのは世界中の陸上ファンが同様だろう。だがファンたちの心は一つで、感謝しかない。ありがとう、ウサイン・ボルト選手!!

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