閉店に泣く昭和40年男。

閉店2もう30年以上世話になっているコックさんで、勝手ながら兄貴分と思っている男が人生の仕上げとなる店を大田区の大鳥居にオープンさせた。2010年の夏の終わりのことだった。輝かしい経歴を引っさげて出したのは、それまでの単価よりはグッと抑えた庶民的なイタリアンの店だった。銀座で食べたら2,500円くらいする皿が1,000円を切る。ディナータイムでも安いパスタセットを提供するなど、お客さん寄りの優しい店だ。奥さんと2人で切り盛りしてジワジワとファンを獲得していった。

 

テレ東の長寿番組『出没! アド街ック天国』で堂々のベスト10内にランキングされて様子は変わり、連日の行列にてんてこ舞いの兄貴だった。これがたたったのか、残念なことに体を壊してしまい人生最後の店をたたむ決心をした。その皿を心に刻みたく閉店直前に仲間と出かけてきた。想像するに、まだまだ開店費用の回収段階だったと思う。単価をグッと抑えたうえ『アド街』の紹介後は、話題にされた一皿だけを求めて客が押し寄せてしまったから単価が極端に落ちた。もちろん店は笑顔で対応するが僕が代弁しよう。小さな店で貴重なディナータイムを一皿だけで1時間以上粘られたらたまったもんじゃない。僕のように前菜とビールから始まりワインをがぶ飲みしながら魚と肉料理をオーダーするのが、レストランにおけるディナータイムの過ごし方のはずだ…、と、兄貴の苦労を代弁したところで店はもう戻らない。

 

しばらくは病気をじっくり治すという。そして完治したら1日1組だけを宿泊込みで迎える完全予約制の店を出したいそうだ。うーん、これはこれで楽しみがひとつできた。特別な日に特別な仲間と出かけて、10代の頃よりお世話になったコックの味を満喫する。しかも酔っぱらってそのまま眠りに就ける。兄貴の夢はそのまま僕のささやかな夢にもなった。

 

最後の訪問に対して、店の外に出てずっと見送ってくれていた兄貴に、ちょっとご近所迷惑だったかもしれない大声で「頑張ってください」と叫んだ。「おう、お前もな」と返してくれ、いつもこのブログを読んでいただいているみなさんならご想像どおり、涙まみれで振り返れなくなった。

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2件のコメント

  1. 大鳥居、なつかしいです。
    webで見ましたが、
    私が生活圏にしてたころは、まだ別の、(ごはんマンガ盛りな?)飲食店だった場所の記憶です。

    ネットの功罪はいろいろあるので、なんとも言い難いですね。
    著名な学者の進化論ではありませんが、
    強いものが残るのではなく、変化できたものが生き残るのかも知れません。
    これから別の場所で別の形で、生き残る、立派な進化 じゃないでしょうか!?

    • そうですね、進化ですよね。楽しみに待っている今日です。

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