広告が入ったぞ。〜昭和40年男の意地〜

昨日の続きである。一緒に会社を立ち上げた相方の実家が事務所だった時代だ。
当時の売り上げなんざスズメの涙どころか、給料をほとんど捻出できないほどだった。
そこに400万円の買い物…、いや仕入れである。支払いは発行の後になるから、広告が
無事に取れて回収ができれば問題はない。ただ、スズメの涙程度しか売ったことのない
会社が、いきなりそんなに売れるものだろうか。バイクの雑誌広告をわずかながら扱って
はいたものの、業界のことなんかほとんど知らない僕たちだった。骨折による手術入院
の退院日に行なった会見で、いきなり突きつけられた400万円は、それでなくともクラクラ
するのに、めまいをひどくさせた。

とにかく検討させてくれと持ち帰り、退院した日だからそのまま家に帰ることにして相方に
電話を入れた。「広告丸抱えで400万だってさ」。いくつかの言葉を交換した後に、ヤツは
「取れるよ」と言った。よーし、2人にその自信があるなら大丈夫と、その日のうちに決定
した無謀な買い物だった。結果から行くと、この創刊号でぶんどってきた広告は628万円。
やったね、228万円の利益が出た。もっとも経費や原稿制作のために結構原価がかかって
しまったが、とにかくなんとかなったのだ。こんな感じで雑誌広告の仕事を本格的に始め、
やがて編集プロダクションとして機能するようになり、出版社へと転身したことは以前にも
本ブログにてたっぷり書いてあるから、興味がある方はどうぞ。

こうして無事に創刊を終えるとある変化が起こった。版元と編プロの間にウチがいて、
わりとね、殿様だったのよ。結果が出たという前提だけど、版元にとっては400万円入れて
くれる大切な広告代理店で、編プロにとっては自分たちが版元からもらえるギャラを下支え
してくれている存在だ。チヤホヤチヤホヤの創刊号打ち上げパーティを終えると、自分たちが
すごく高いところに上げられていた感じだ。でもね、そうカンタンに商売が展開していくわけが
ない。まず第一の失敗がこの雑誌がまったく売れず、8割近くがゴミとして処理されてしまう
という大失敗を喫したのだ。創刊でつき合ってくれたクライアントたちは、効果が出なかった
ことでどんどん降りていってしまう。弱くなる編プロ社長に、殿様になった僕は、雑誌の中身
にまで口を出すことになっていく。

まだ雑誌のことなんかこれっぽっちもわかっていない、30歳にもならないおこちゃまだ。
「取材組んでもらって、そうですねカラー2ページくらいで取り上げてくれれば広告取れるんです
けどどうですかね」。これは広告サイドとしては正論であるが、編プロとしてはおもしろくない。
でもなんてったって殿様が言っていることだし、本が売れないのだからせめて広告くらいは
入れてもらわないと打ち切りになっちまう。うん、これも売れない本を作っている編プロサイド
としてはある意味正論ですな。ところが、この両者大切なことを見失っているのである。
読者の存在だ。バイクのことをよくわかってない僕が、広告のために作らせているページを
買わされるのである。雑誌の落とし穴だね。もちろんビジネスの考え方としてはいろいろある
ので、広告出稿と引き換えに編集ページを作ることが全面的に悪だといっているわけでは
ない。リクルートの本なんか広告で成立しているものがほとんどだし、女性誌の世界でも
よくある話だし、バイク雑誌でもよくある世界だし…etc.etc。

結果からいうとこの雑誌は廃刊に追い込まれた。今振り返っても、広告サイドのプレッシャー
によって本がダメになっていったとは思えない。もっとも大きな要因は情熱がなかったからで
ある。ただ、情熱を欠かせてしまうような言動が僕にあったことは、このとき編集者として
がんばっていた人間から後になって聞いた。こんな事件を踏まえて、その後も紆余曲折
(この辺はまたいつか書くことでしょう)を繰り返し、ウチは広告と編集の線引きしている
珍しい(!?)版元になったのだ。

長い長い前置きになったな。『昭和40年男』の考える広告出稿クライアントについてである。
そりゃー、応援するよ。だって理解者ですもの大好きにもなるってもんよ。肩が凝ったらトクホン
ですよ、あったり前じゃありませんか。でもね、読者さんが困惑するようなことはしないように
します。商品をPRするためにページを買ってくれ、編集と組んで展開する場合はキチンとPR企画と
ページに銘打っている。読者さんは、ああこのページは広告物なんだなとわかるようにする。
広告なんだが編集ページなんだかわからない本て信用ならないじゃない。そこまで読者を
馬鹿にするなってね。もっというと、一番損するのはわからないようにPRしようとして、読者さんに
バレバレの企業だよね。

PRの仕事として理想的なのはこんな流れだ。
  「今度こんないい商品ができたからPR企画に入れたい」
  「はい、ありがとうございます。わあ、ホントいい商品ですね。これだったら僕が長期でテスト
   してから掲載しましょうか?」
  「だったらこんな○○もどうですか」
  「あっ、それおもしろい。△△もいいですよね」
  「それいいね、じゃあ予算増やすから4ページでやりましょう」
みたいなね。PRのページも打算でなく、やはり情熱を持って作る。でも、ここはお金が出ている
ページだから商品にフォーカスしているのですよ読者さん!! との意味を込めて“PR企画”と打つの
です。そして読者さんも、この商品良さそうだなと感じてくれれば大成功、みんな幸せなんすよ。

と、そんなモチベーションでがんばっている広告部員と僕たちを褒めてやってくださいって、結局
自分とこのPRじゃん(笑)。

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