昭和53年とシティポップ!?

70年代中盤あたりから、洋楽シーンでは新しい響きの音楽が次々とあふれ出ていた。ロック史上極めて重要な、パンクムーブメントやAOR、ディスコサウンドなどなど百花繚乱時代への突入だ。そんなシーンの裏側ではテクノポップがポコポコと新しい芽を出していたのだから、実におもしろい。これらがまた何かと融合して、次々に耳ざわりの異なる音楽が生まれ続けてた時代が80年代前半まで続いただろうか。

そのなかにあって、国内でも洗練されたサウンドとリズムを武器に攻め込んできた一派が出てきて、その源流の一つをたどると“はっぴいえんど”という怪物バンドにたどり着く。彼らの才能が若い才能を次々と開花させた。加えて洋楽の発展が日本のミュージシャンたちにとって身近な影響となり、取り入れていった。その沸点を迎えたのが、80年代の前半に巻き起こったシティポップブームだ。

これに関する証言をいくつも掲載した最新号だが、連載特集の『夢、あふれていた俺たちの時代』で取り上げた昭和53年がシティポップと細い線で結ばれている。もしも今回ピックアップしたのが昭和46年だったら、特集とはほとんど無関係となっていただろう。昭和53年だったから、微妙なおもしろさがあるのだ。ところが逆に昭和56年とか57年だったらシティポップ全盛時代とドンピシャすぎて、カブリ感が強く出すぎる。さすがにこれを予定していたら『夢、あふれていた~』は変更していただろう。

ここだけの話(笑)、今回シティポップで特集を組むのはかなりチャレンジングなことだったが、『夢、あふれていた~』が昭和53年であったことが、ずいぶんと気持ちを軽くしてくれていた。昨日もここで書いたとおり、昭和53年は多くの昭和40年男が中1になり、人生で初めてとなる大きな生活の変化を味わった年からだ。人それぞれ転校や親との別れとかいった人生の激変をすでに味わっていた方も少なくないだろうが、中1への生活変化は皆共通である。ここにあった思い出は、強く心に刻まれているだろうから、きっと楽しんでいただけるとの計算が立つ。マー君を先発に起用する試合のようなものなのだ。いや、僕ら世代だったら巨人戦に小林繁さんを先発に起用するようなものだとたとえた方がいいかな。

時間よ止まれ前述のとおり、昭和53年はシティポップと微妙な線でつながっている。この年のオリコン年間ヒットチャートを眺めると、ピンクレディーが上位3曲を独占していてさらに6位と大活躍のところにキャンディーズが『微笑みがえし』で5位に食い込んでいる。彼女たちがランキング上位独占状態のその裏で、シティポップの片鱗がうかがえる名曲がベスト10内に2曲堂々と入っているのだ。サーカスの『Mr.サマータイム』であり、永ちゃんの『時間よ止まれ』だ。8、9位の健闘を見せるこの2曲こそ、当時はまだ出回り始めた直後のAORの影響が色濃く、日本のオシャレミュージックとしては最初のビックヒットと言っていいかもしれない。特に『時間よ止まれ』はそのイントロの雰囲気と、曲全体に漂う夏のイメージ、汗をかいたグラスの冷えたジンとの表現など、後のシティポップへとしっかり繋がっているじゃないか。

時代を俯瞰しながら線で結んでいくのは、我々おっさんにとって人生の楽しみの1つですな。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

3件のコメント

  1. はじめまして。
    先日この特集号を、地元の書店を通じて取り寄せを試みたのですが、何と完売で編本が編集部さんにも無い状態なので、「古書店」等で探してみて下さいとの事…。

    特集内容とあの表紙!絶対に売れるんだろうなと思っていたけれどまさかここまで…。と悲しい半面嬉しい思いを抱きました。

    今回は「古書店」なりネットなりで何とかこの号を入手しますが、編集部のみなさんどうぞこの次にも第2弾!第3段!!とこの特集をシリーズ化して下さい!!

    いや、シティポップス以外の音楽特集をどんどん組んでいただきたいと思います。

    乱筆乱文失礼いたします。

    • 品切れ状態で申し訳ありません。
      音楽特集はトライしたいと思っています。ありがとうございます。

コメントは受け付けていません。