昭和40年男と食品偽装。

毒々しい食品にあふれていた俺たちの時代だ(笑)。同世代との酒の席でいつも笑い話に上がるのは、駄菓子屋に並んだ不健康食品の数々によって、俺たちはきっと強く鍛えられたという話題だ。だがもしかすると、そんな食品ばかりと接してきた同世代だから、今問題の現場が練り上げられたとしたら悲しいばかりである。ホテルの総料理長とか、デパートの食品管理責任者といったポジションにいるのは、きっと僕ら世代が中心となっているだろうから…。

ちょいと話はそれる。先日出張先の小さな村で、サッカーの練習帰りの子供たちが大勢でコンビニに入って買い食いをしている光景を見かけた。昔に比べると格段に美しくなった菓子を思い思いに購入して、駐車場でそれを食べながらおしゃべりを楽しんで、食べ終わると帰路についた。昔と変わらない行動ではあるが、長っ尻はしない(出来ない)ようだ。昭和40年男にとって駄菓子屋は最高の社交場であり、男を磨く行きつけの店だった。女の子は入れないその結界の中でダラダラと過ごし、おババとの駆け引きで男を磨いたものだ。それがコンビニに変わったということは、将来彼らは1人でバーや居酒屋に入れないかもしれないと、少々不安になったがこれが時代の流れだ。今世間を騒がせている食品偽装問題も、前述したとおり僕らの幼少時が影響していたとすると、笑い話が成立しなくなってしまう。

加えて、まだグルメなんてのとほど遠い食生活を送ってきた我々が、バブルが近づいてくる足音と共に大グルメブームを体験した。雑誌やテレビはこぞって特集を組み、マンガは素材の大切を説き続けた。それらを真に受けた我々でもある。駄菓子屋で舌を真っ赤にしていた少年たちは、女の子を口説き落とすためにグルメになった。メディアから得た知識を最大限に駆使して講釈をたれる。そもそも、いつも集団でブームにのせられ続けた世代だからまんまとハマった。メニューに素材を表記することで支持が得られるという甘い蜜を、我々が作り上げてしまったのかもしれない。飲食業界では、一部の悪魔に魂を売った者がその蜜を吸ったのだ。生絞りジュースといえば高い金を払うが、舌はもともと真っ赤になっていたのだから区別なんかつかない。僕もまったく同じで、舌はまったく鋭くないものの素材がキチンと表示されていればうれしく感じてしまう。テリーヌになったブラックタイガーが大正海老と言われたところで「やっぱり違うね」なんて喜んでいただろう。

きっと今報道されているのは氷山の一角であり、現在慌てている飲食店は星の数ほどあることだろう。立ち食いそば屋に立っている『手打ち蕎麦』ののぼりとか外しているのだろうか。ちょっとギスギスし過ぎとも取れる場面もあるが、大きな問題はまず1つ、真面目にやっているところがたくさんあることだ。天然モノしか扱わない寿司屋では、キツイ思いをして踏ん張っている。この店の海老がもしもブラックタイガーだと疑われたらどんなにつらいことだろう。彼らは、養殖の現場の安全を信じていないから、天然だけを扱うことを貫いている。口に入るものの安全は確保しなければならない。これは料理人の基本である。

利用者の落胆も考えれば考えるほど腹が立ってくる。ホテルやレストランは、高い金を払って引き換えに夢の時間を得る。毎日のように利用しているスゴイ男もいるだろうが、一般的には大きな記念日に大奮発して楽しんでいるはずだ。たとえばの話、子供の大学卒業を夫婦でよくがんばったなと、2人の時間を楽しんだ舞台で料理が偽装されていたとしたら。そしてそれを知ったら。すべてを台無しにした連中は絶対に許せない。

飲食業界にいる昭和40年男たちよ。今回の問題を解決する原動力になっていただきたいと願う。記者会見で言っていることが嘘っぱちなことは現場の人間ならみんな知っていることだろう。立てっ!! 立つんだジョー…じゃなかった、昭和40年男たちよ。

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