駄菓子屋のおもひで。

先日ここで駄菓子についてふれた。
あれこれと思い出す中で、駄菓子屋という俺たちにとって
きわめて重要だった社交場について
アレコレ記憶の旅に出たのだった。
舞台は東京は下町、荒川区の区役所周辺である。
まだ小学生低学年のことだった。
行動エリア内の駄菓子入手経路は
果物屋さんの店頭、パン屋さん、専門店(駄菓子屋さんだね)の3つだった。

やはりなんてったって専門店が魅力的。
他の2店にはない駄菓子屋ならではのものがあるからだ。
あんこ玉やイカものなどに代表される
一つ一つがパッケージされていないまさに駄菓子と呼ぶにふさわしいメニューが並ぶ。
さらにダラダラと過ごせる雰囲気を醸し出していて
子供たちにとっては重要なコミュニティだった。
仲間たちとあれこれ言いながら本日の一品を選ぶのは
大人の階段を登るうえで重要な時間だった。
が、ここは婆さんがよろしくなかった。
なんだか陰気で怖いのだ。
それと家からちょっと遠かったのも、俺にとってはやや難ありだった。

たまに利用する果物屋とパン屋はさっと買って食べることだけが目的で、
今の俺たちの暮らしに置き換えると
呑み屋に行くのと発泡酒をコンビニで買って帰るのと
同じくらいの差がある。

何年生のときだったろうか、突然の黒船来襲に
近所の子供たちは色めきたった。
専門店でありながらおばちゃんが優しくて、
広い店内にはベーゴマやプラモデルがそろい、ゲーム機まで設置されていた。
駄菓子のラインナップも豊富な、スーパー専門店の出現であった。
その店のことを俺たちはこう呼んだ。

新店と。

発音は“しんみせ”だ、念のため。
これまで以上に長居が出来る新店は、子供たちの心ばかりでなく
財布の中身もわしづかみにしたのだった。
ゲーム機はクリアすれば30円の引換券が出てくるため
一攫千金を狙う男たちが列を作った。
周囲の猛者たちが覗き込む緊張の中で、クリアを目指す。
が…、玉砕することの方が断然多い。
イカもあんずも買えずに家路をたどるのことも、少なくなかった。

新店にはほぼ必ず友達がいて
約束をつくらなかった日もここに行けば楽しい時間が過ごせる。
小学生のホンの短い間だったが、ここで過ごした時間はとても大きい。
注ぎ込んだお小遣いにしめる割合も相当なものだっただろう。
というわけで、新店は俺たちの暮らしを激変させたのだが、もうひとつすごい存在があった。
屋台で移動しながら子供たちの財布を襲う、カンカン婆だ〜(つづく)。

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