ベートーベン交響曲第7番。

昨日は秋らしく芸術にドップリと浸った。出かけてきたのは大田区民ホールで、蒲田にある比較的新しい施設だ。ベートーベンの曲を生で聴くのは初めてのこと…。などと書くと、さもクラッシック通のように取られてしまいそうだが、素人同然である。ただ小学生の頃、親父が聴いているのになんとなくつき合っているうちに好きになり、やがて好んで聴くようになった。教育の一環だったのだろう。親父の作戦にまんまとのせられた格好で1人の時間でも聴くようになり、チョクチョク買い与えてくれた。昔はよくあった駅前の小さなレコード店で物色しながら、これは好むだろうとかセレクトをしてくれ、名曲の数々を教えてくれたことになる。チャイコフスキーのバイオリン協奏曲を小学生で知れたことは、今は亡き親父に深く感謝していて今もよく聴いている。3年ほど前になるだろうか、今回と同じ西本さんの指揮による同曲を聴きにでかけてえらく感動した。クラシックコンサートに自分の意志で出かけたのは、多分これが初めてだっただろう。昨日は2度目となった。

公益財団法人の大田区文化振興協会なるところからのちらしが、ポストに入っていたことでこのコンサートを知った。財団法人ということは鋭利集団でないから、このようにチケットが安い。前回のサントリーホールでの公演は、この3倍以上の価格帯だった。文化振興を名乗っているがその幅は広く、お値打ち公演が安価に展開されていて、最近では定期的にチェックしている。

『運命』や『田園』などのスーパーメジャーナンバーではないが、ちょくちょく演奏される曲らしい。40分に及ぶ4部構成の大曲で、とてもわかりやすくて退屈させない。ド派手なリズムバシバシの部分が多く、親しみやすいメロディとともに、聴く側にグイグイとえぐり込んで来るかのようだ。美しい西本さんが全身を使って演奏を引っ張っていく姿は神々しく、釘付けにさせられた。第4楽章後半は、まさにこれぞハイライトといった盛り上がりで、エンディングもこのうえないカッチョいい締めだった。その余韻のなかで、観客全員が心をひとつにしたかのような拍手が延々と注がれた。

「ありがとう」そんな気持ちだった。これほどの上質の時間を提供してくれた、ステージ上に立つ皆さんが輝いていた。全身全霊のパフォーマンスを大勢のプロたちが紡いだ演奏は、これ以上の贅沢があるのだろうかとの至福を味わった。究極のアナログである。なんの加工もしていない生音が、1つの固まりになって惜しみなく注ぎ込まれる。クラシックコンサートの最大の魅力だろう。なんとなく退屈なものだろうと思っている方やクラシックはどうも苦手という方でも、生のすごさを経験したら変わると思う。退屈する暇なんかまったくない、疾風のような40分だった。普段の生活では絶対に味わえない音質と音圧は、言葉では表現できない人間の根本のところにグッと効くいい影響があるだろうなと、うまいビールを呑みながら頷いていたのだった。

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