オレたちを眠らせなかった真夜中のヒーロー「伊集院 光」インタビュー
オレたちを眠らせなかった真夜中のヒーロー

伊集院 光

中学生時代、ちょっと背伸びをして深夜放送を聴き始めた時期に直撃を食らった『伊集院光のオールナイトニッポン』。ラジオにガッツリとハマッた高校生時代に盛り上がっていた『伊集院光のOh!デカナイト』。昭和50年男のラジオライフは伊集院光と共にあったと言っても過言ではない!

取材・文:北村ヂン  撮影:石塚康之

あの頃のラジオは、世間から相手にされていなかった

現在ではよく知られている話だが、伊集院光はもともと三遊亭楽太郎(現在の六代目・三遊亭円楽)に弟子入りをし、落語家・三遊亭楽大として芸能活動をスタートしている。その前座修業と並行し、ラジオのオーディション番組に出場したことで“伊集院光”としての経歴が始まっていくのだ。

「落語家としての兄弟子がリタイアして放送作家になったのですが、その人から『お笑いオーディション番組に人が集まらないから出てくれないか?』と頼まれたのがきっかけです。当時、『オレたちひょうきん族』と『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』が猛烈な視聴率争いをしていた、その裏でやっているラジオのお笑いオーディション番組なので、聴いている人がいない、当然、出場希望者もいないんですよ。本来、そういう活動をする時には、まず師匠にお伺いを立てないといけないのですが、聴取率*の番組なので、『ラジオで姿は見えないし、第一誰も聴いてないんだから、適当な芸名つけて、黙って出ちゃえばいいじゃん』ということで、『伊集院光』という、顔が想像できないくらいカッコイイ芸名をつけて。それが伊集院光の始まりでしたね」

『伊集院光のオールナイトニッポン』

このオーディション番組『激突! あごはずしショー』に、オペラ漫談をやるギャグオペラ歌手・伊集院光として出場。以降、『伊集院光のOh!デカナイト』の初期頃までは“ギャグオペラ歌手”キャラで活動しており、本気で伊集院光=オペラ歌手だと信じていた人も少なくない。それにしてもなぜ、落語を修業しているのに“オペラネタ”でラジオに出ることになったのだろうか。

「イッセー尾形さんが好きだったので、自分の落語会で演るように、一人コントを作ったりもしていたんです。そのなかに『有名なオペラ歌手がくだらないCMソングを歌わされる』という一本ネタがあって、それの評判がよかった…というところからの派生だったと思います。オペラが好きだとか、詳しいなんてことは全然なく。自分の見た目と、営業用にタキシードを持っていたから作ってみた、くらいのいい加減なキャラでしたね」

その番組で勝ち抜いてグランドチャンピオンとなり、伊集院光はニッポン放送およびラジオとの関係性を深めていく。

「チャンピオンと言っても、ラジオなのにパントマイマーや斉藤由貴の顔そっくりさんが出ているような番組ですから(笑)。公開生放送の会場では、斉藤由貴さんのCDの音源に合わせて口パクで歌っているんですけど、ラジオを聴いている人からするとCDが流れているだけ。でも、とても有能なスタッフがいて、そんな状況をどう楽しむかという工夫がすごかったんです。よく憶えているんですけど、よろしくたけしたかしっていう2人組がいて、すごくコンビ仲が悪いんですよ。オーディションでも途中でケンカになっちゃうんで、それぞれピンになって、それぞれがラジカセに自分の声を吹き込んで相方にしてネタを始めて。最終週には、舞台にラジカセが2台置いてあるだけっていう(笑)。まあシュールでおもしろい(笑)。あの頃のラジオって、今以上に世間から全く相手にされていなかったんですが、その代わり“なんでもやってやろう”“何をやっても許される”という意識が強くて、みんなでいろいろと仕掛けていましたね。そんな謎の番組と謎の熱意のなかで、僕もラジオのおもしろさに目覚めていきました」

グランドチャンピオンの賞品として、ニッポン放送の朝のラジオ番組『山口良一のそれゆけ! 土曜日行進曲』のリポーターに就任。1988年には『オールナイトニッポン』(以下、『オールナイト』)水曜2部のパーソナリティにも抜てきされている。

「当時の『オールナイト』ってものすごく成熟していて、1部はもちろんのこと、2部も知名度の高い人で埋まっていたんです。そんな時に会議で『もっと得体の知れないヤツが必要だ』という話になったようで。『だったら朝の番組でリポーターやってる変なヤツがいるじゃねえか』と」

“得体の知れないヤツ”枠として、ほぼ誰からも知られていないような状態で88年10月にスタートした『伊集院光のオールナイトニッポン』だが、やがて架空のアイドル・芳賀ゆいの企画などで評判となっていく。

「『“歯がゆい”という言葉はアイドルの名前っぽいよね』というトークが始まりで、そこから『じゃあどんな歌を歌うと思う?』『どんな髪型かな?』なんてハガキがどんどんくるようになって。アイドルが好きだった若手放送作家・Sさんと、その影響でアイドルを好きになりつつあった僕とで盛り上がって、もともとはアイドルのちょっとシニカルなパロディとしてやっていた企画だったんです。最終的に芳賀ゆいちゃんがスキャンダルを起こしたり、ヘタしたら死んじゃうなんていう展開まで考えていたんですけど、ムーブメントが大きくなっていったことで、僕らのコントロールから離れてしまって。なぜなら、『これはお金になる』と思っている人たちがいたから。自分では“おもしろい企画をみんなで楽しんでいるだけ”だと思っていたのに、そこに大人としての責任がついてきたりとか、“みんなの旨味”みたいなものがついてくるんだということを、21、22歳の青年は思い知りましたね」

ラジオリスナーの間で伊集院光の名前が認知されていくなか、落語家・三遊亭楽大としての活動も続いていた。師匠に隠れて、別の芸名での活動。本来、落語界的には御法度のはずだが問題にはならなかったのだろうか。

「落語会もそんなにたくさんあるわけではないし、師匠の家の掃除さえしておけば、なんとかラジオと落語家を両立できたんですよね。ただ、その時期にちょうど前座から二ツ目に上がり、放送局への挨拶まわりということで師匠が僕をニッポン放送に連れて行ってくれるという話になり…そのあたりで観念しました。『実はこういうことをやっていて、ニッポン放送でお世話になっています』と白状して。でもうちの師匠は寛大で『落語も伊集院光って芸名でやればいいんじゃねぇの?』って。落語家って、たとえば立川談志の弟子だけど土橋亭(どきょうてい)里(り)う馬(ば)とか、柳家小三治の弟子だけど横目家助平(すけへい)といった、違う亭号、名前を名乗る人もいるんですよ。師匠はこの二重生活がどこかで破綻するのがわかっているから、芸名を伊集院光に統一するようにすすめてくれたんですが、僕は僕で、本道はまだ落語だと思っていたので『三遊亭』の名前がなくなるのはイヤだとも思っていて…そのまま二重生活を続けていきました」

負け残り方式で始まった『Oh!デカナイト』

たけしさんの後は僕だと思っていた

『オールナイトニッポン』は、2部で人気になったパーソナリティが、2時間早く放送が始まる1部に昇格するというのが定番の出世コース。しかし、芳賀ゆい企画などで大きな話題となっていた『伊集院光のオールナイトニッポン』は結局、1部に昇格することはなかった。

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