【後編公開】キャンディーズ衝撃の解散宣言… あの夜を44年後につないだ伊藤 蘭。9/26開催「野音Special !」の全キャン連代表レポート !

[4/5]

■心に刻まれた4月4日、7月17日の日付… 後楽園と野音は今も聖地

取材・文: 石黒謙吾



野音での解散宣言の翌日15時から、西銀座にあった渡辺プロ直営のライブハウス「メイツ」で緊急記者会見が開かれ、この模様が夕方以降のテレビで流れた。そして、その晩の『夜のヒットスタジオ』に3人は予定どおり登場した。

出番になりスタジオ中央にキャンディーズが立つと、司会の芳村真理さん、井上 順さん、さらには後ろの席に居並ぶたくさんの歌手の人たちが、心配そうに小柄な3人を覗き込む。前日からのビッグニュースに触れ、いつもとは全然違う静かなやりとりだった。僕も、心配と不安と混乱がないまぜになり胸が締めつけられるような想いで画面を見つめていたが、水色のミニで歌い始めた3人は、そのもやもやを振り払うかのように、華やかに元気にしっかり笑顔で「暑中お見舞い申し上げます」を歌い上げた。プロの凄さも感じさせた驚きだった。
 
しかしまだ21歳と22歳の3人の心の芯には、さまざまな葛藤があるのは当然だと思っていたし、いったいこの後どうするんだろう、とそのことばかりが思い浮かび、あの楽しげな曲を聴きながらなのに涙がこぼれた。
 
 
野音の騒動からしばらく経って、解散自体は4月まで延びることになり、とにかくまずはホッとした。お別れが9ヶ月先となリ、ファイナルは後楽園でと決まっていった。そうなると日本各地に9支部の「全キャン連」は完全バックアップ態勢に入る。

もちろん解散宣言直後は全てのファンが「やめないで!」と思ったはずだ。しかし、3人の気持ちに寄り添う全キャン連は、ラストまで全力で応援しようと決起する。10月1日にはニッポン放送の『オールナイトニッポン』でその公開宣言を行い、いよいよ全国で応援機運が高まっていって、伝説の後楽園ファイナルへの花道が切り開かれていった。
 
 
今回の「野音Special!」のライブで44年ぶりに日比谷野音で歌い踊った伊藤 蘭さんだが、実はこの間に一度、野音のステージに立ったことがある。後楽園ファイナルの2日前、’78年4月2日の日曜日に開催された “ファンの集い”、『ファイナル・カーニバル 前夜祭』だ。これに僕は行っている。たった1,000円のチケットで、解散宣言の時と同じようなデザインだった。3人は歌わなかったが、女性のファングループ「キャンディーズチア」お手製のピンクのハッピを着て壇上に上がり、集まったファンへのあいさつや意気込み、また想いをつづった詩を朗読するなど、トークで僕たちを盛り上げてくれた。

この時のことを、僕が今年8月に音楽サイト「Re:minder (リマインダー)」の記事で蘭さんに取材させていただいた時に話したら、私服で登壇したとか、詩の朗読やりましたね、とか覚えていて、ピンクのハッピを着た3人の写真も渡せたので懐かしそうに見ていた。
 
ちなみに、その後はお客さんの立場でも訪れたことはなかったそうなので、野音に足を踏み入れたこと自体が件のファイナル前夜祭以来、今回のライブが初、ということになる。

Photo:Midori Kondoh
Photo:Midori Kondoh

 
解散から43年間、毎年4月4日と7月17日を迎えると、「ああ、今日はファイナルの日だ」「今日は野音の日だ」と特別な感慨に浸って一日を過ごす。キャンディーズファンならば当時と全く変わらない感覚があるはずで、後楽園、日比谷野音、この2ヶ所はキャンファンにとっての二大聖地である。だから、当日になるとその場に向かう人も未だにいる。僕も何度か行っているが、“その日そこにいること” が、自分がキャンディーズに青春を賭け、その後の人生も支えてもらい生きてこられた証と思えるからだ。
 
解散から6年経った ’84年の夏。僕は、新聞系の会社、時事通信社の運動部でアルバイトをしていて、日々、日比谷公園内の市政会館というレンガ造りの建物に通っていた。その夏も7月17日がやってきて「ああ、今日だ」と追っかけ時代の思い出を反芻しつつ、朝10時出社に間に合うギリギリでバイトに向かっていた。
 
地下鉄丸ノ内線・霞ケ関の駅を降り、公園内を通って会社へ向かういつもの道沿いに、野音の入口が面している。その入口が遠くにわかるぐらいの場所で、ラジカセの音がかすかに聴こえてきた。近づいて行くと何の曲かはっきりわかった。
 
<「暑中」だ!> 心の中で叫んで、その音の方に目をやり足早に歩く。と、自分と同世代の男性が一人っきりで、大きなラジカセを地面に置き、シートを敷いてただ何をすることもなく座っていた。目が合った。驚きと真剣さと親近感がミックスされた僕の表情や目つきで、その人は “同志” であることはわかったと思う。そういう顔をしていた。しかし、話しかけたい衝動に駆られつつ、バイト時間ギリギリという切迫状況で躊躇してしまった。一言でも交わして、お互いのあのアツイ気持ちを共有しておきたかったと、このことは今でも後悔している。



(次ページへ続く →
【伊藤 蘭コンサート・ツアー2021「野音Special!」レポート Part3】
 ■新たなスタートの場に… まさにスペシャル!だった、2021年の野音の夜
[5/5] )

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で