土佐より届くハガキ。

30歳を迎える直前に、尊敬する坂本龍馬の故郷に行き学ぼうと、2泊3日の夏の一人旅に出た。今のように全国を無条件で飛び回る仕事ではなかったものの、バイク関連の雑誌広告を全国各地に電話営業で取るというスタイルは確立していた。原稿のやり取りは懐かしのFAXである。高知に支払いの悪いクライアントがいて、その集金をミッションにして旅を企てたのだ。主たる目的は完全に自分の人生のこれからがテーマだったから、自費で飛び立った。

 

さて、どこで呑もうかとふらふらと物色するのが大好きだ。当たり外れはあるものの、店の顔でその夜を託すのだから命がけである (!?) 。「お箸の国」にちょっとハードルの高さを感じたのは、店の顔が僕には上品過ぎたから。店名もそのロゴも大変よろしい。が、中心地の物色を1時間ほど続けてここがベストとしか思えず、この夜を預けることを決めた。初めての店の、しかも知らない街で暖簾をくぐる時は、今に至っても少しのドキドキがあり大好きな瞬間だ。その勇気を振り絞って入ると、女将さんがたった一人で切り盛りしている小さな店だった。初の土佐で、しかもその初夜に僕は美人女将のみどりさんと出会った。

 

入った瞬間に「大当たり!!」と心が躍ったのを強く記憶している。常連さんらしい客が二組いて、いい雰囲気で盛り上がっていた。鰹のタタキを当然ながらいただく。盛られた野菜とポン酢でいただく鰹のうまいこと。薬味にニンニクが添えられることを生まれて初めて知った。お勧め料理を次々にいただき、やがて店が少し落ち着くとよそ者だと白状して、土地のことをあれこれ伺う。いい店にはいい常連さんがいて、皆さんでいじり回してくれる。土佐弁が心地よく、かなりの長っ尻となってしまった。

 

翌日、一応ミッションの取り立てもそこそこに、桂浜や龍馬さんの生家、高知城などのスポットを巡り最後の夜がやってきた。散々悩んだものの前夜のことが忘れられず、ちょっぴりお恥ずかしいが二夜連続でお世話になることにして暖簾をくぐった。決してみどりさんに惚れちまったわけじゃない (寅さんか・笑) 。前夜以上に温かく迎え入れてくれ、常連さんとおかみさんとの会話を存分に楽しんだ。そしてなんと、常連のジェントルマン (当時で50歳くらいだったろうか) と女将さんが、明日東京に帰るからと送別会を開いてくれるという。近所の店に3人で繰り出し、さらに楽しい夜を過ごせた。払いは頑として受け取ってくれず、高知に来た時にまた会おうと兄貴がおごってくれたのだった。30歳直前、26年前のいい想い出である。

 

ちょくちょく行ける土地ではないが、この後三度ほど顔を出している。そして正月とお盆には必ずこうしてハガキが届く。切れない絆であり、受け取るたびにあの送別会を想い出してはほっこりする。呑兵衛は想ふ、いい呑み屋ってのは人生の財産だなと。
 

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