チェックは終わった。
制作の作業台にすべてを託し出かける。
ジーンズからスーツに着替え、編集長からスーパーハイパービジネスマンに変身だ。
朝の清々しい空気と、降り注ぐ太陽の光がまぶしい。
新幹線に乗り込みクライアントが首を長くして待っている、西へと向かった。
「みんな、あとは頼んだぞ、行って来ます」
疲れは限界をはるかに通り越しているのに、気にかかって眠れない。
もっとも、寝たら絶対に乗り越すだろうけどね。
結局、すべてが終わったと連絡を受けたのは
こっちも仕事が終わった直後の夜だった。
みんな、お疲れさまでした。
俺は1人のホテルで缶ビールをかざした。
朝4時過ぎ、集中力が途切れそうになりティータイムにした。
モーターショーから帰ってきた約12時間前には山のように積まれていたチェック用の原稿も、
もうずいぶんと減り、出発の8時までには片付く目途が付いた。
「ふーっ」
さっきから封印していたエンドロールを浮かべてみた。
この企画は2年以上前から描き続けてきたモノだ。
なんとバカげた本だと自分自身を疑い、
書店で何度もイメージを重ねて、決心できる日を練り上げてきた日々だ。
長かったけど、あっという間だった気もする。
とにかく、悩みに悩み抜いた日々は自分にとってものすごく大きな財産になるのだろうな。
っと、まずいまずい。
まだ作業は残っているんだから。
窓の外が白み始め、カラスの声が響いている。
昨夜7時ごろから、計6本の酒宴へのお誘い電話をいただいた。
そう、モーターショーの初日なのである。
バイク業界にとってはものすごく重要な日で、
俺はいろんな打ち上げに顔を出すのがこの2年に一度の祭りの恒例になっている。
最後の誘いはなんと日付が変わって朝の3時過ぎ。
みんな元気だよ。
「コッチはまだやってるんだ。もういいじゃん、今日は終わりにしなよ」
電話の向こう側の盛り上がりが伝わってくる。
「いやあ、今回新創刊なんですよ。朝までがリミットで」
意味はスグに理解してくれる。
「そうか、悪かったね」
こんな時間に誘ってくれることや、
すぐにわかってくれることが胸に熱く沁みる。
なんだか感情の起伏が激しくなっているのは
この長かった作業が終わりに近付いているからだな。
モーターショーから戻り、
ひたすらチェックとヌケの原稿を書き上げる。
もう、ホントに最後の闘いだ。
翌日は出張が入っていて、編集部にいられるのは朝8時がリミットだ。
何度チェックしても不安は消えない。
「あと3日あればなぁ」
などと、この期におよんでも女々しいことを考えたりしている。
夜が更けていく。
もう何日泊まっただろうか?
何日風呂に入っていないだろうか(バッチイ)?
ここまでに至った時間が
エンドロールのように浮かんでくるのをかき消しながら、作業を進めていく。
最終のチェックを8時までに済ませて、制作担当者に託して出かける。
俺がチェックしたものを元に、訂正などを加えていき印刷所へ引き渡される。
その際に、また制作担当ならではの訂正の提案などを受けるため
この日いっぱい編集作業は終わらない。
ただ、この1日の延長は当初予定になかった。
また、さんざん迷惑をかけているクライアントとの仕事を進めるため
最後の編集作業に俺は加われない。
もう1日を戦うために、他の編集部員は眠りについた。
俺の作業場所だけピンスポットのように明かりがともっている。
ガランとしたオフィスにひとりきりだ。
この押し迫った時期に
モーターショーのプレスカンファレンスに行かなければならない俺。
12時半にオフィスを出て、4時過ぎには戻ってくるという、
俺にとって東京モーターショー取材歴最短の時間で終わらせた。
トヨタのカンファレンスが見られなかったのは残念だが、
連日の泊まり込みから放つ獣臭とアブラギッシュなテカる頭を気にしながら、
クライアントと挨拶を交わした。
一丁前に意見なども述べるのが仕事でもある。
俺は遠慮なく言う方なので求められる。
ただ遠慮なく言うだけではもちろんただのバカで、
ものすごく考えて、奥の方から引っ張り出してコメントし続けてきたつもり。
そのおかげだね、多くのメーカー担当者から声をかけられる。
「あのコメントはスゴイと思いました」
「この展示の仕方はコンセプトと相反すると思います」
「こんな経済状況だからわかりますけど…」
etc.
大忙しにそんな自分をこなして、編集部へと戻りスグにチェック、チェックだぜ。
明日の出張は、一度変更してもらったので動かすわけにはいかん。
いよいよ、もう数時間しか残っていないのだ。
いくぜ!! 最後の追い込みだー。
10月21日。
この日の午前中いっぱいがもう手を離さなければならないリミットである。
が、創刊にかける俺に対して、
制作部門から「22日の午前中までは大丈夫です」
と特別な“余裕”をプレゼントしてくれた。
とはいえ、この日は2年に一度の東京モーターショーのプレスデイで、
翌日は発売日延期で調整した出張を入れてある。
バイク雑誌を主力とする我が社のトップである俺が、
東京モーターショーのプレスデイにいないというのは
ちょっとマズイ。
でも、せっかく延命してくれた、手を放すまでの時間は
さらなる熟成やチェックに使いたい。
そこで俺は、クライアント(バイクメーカー)のカンファレンスだけを見て
帰ってくることにした。
流行りモノ総点検のページに入れようと思っていたイラストのスペースには
本来はコミカルなタッチで
その時代時代の象徴的な昭和40年男像を描いてもらいたかったのだが、
うん、結果的には代案ながらよくできたと思う。
さらにここの本文は俺が代筆した。
ヒーロー考察の1~5で、これは後悔が残る上がりになってしまった。
もっとおもしろいものが書けるのに。
でもこの段階では誤字脱字や文の流れや整合性をチェックする、
校正という作業が重くのしかかっている。
同時進行の中で疲れはピークだ。
言い訳になってしまうが、
おもしろい題材なだけにもっとキチンとやりたかったと思うのは
今日に至っても同じだ。
いつか、壮大なスケールでリベンジするので乞うご期待!!
(でも、やっぱり悔しいっす)

7月にリリースされたセルフカバーアルバム『WORKS』
少し報告が遅くなってしまったが、
12/11に林田健司氏のライヴに行ってきた。
林田氏はSMAP、KinKi Kids、SPEED、
藤井隆、中山美穂、奥井雅美、中森明菜などなど、
多くのミュージシャンに楽曲提供していることでも知られ、
みずからもミュージシャンとして活躍している。
有名なところではSMAPの『$10』、『君色思い』、『KANSHAして』、『青いイナズマ』、
ブラックビスケッツの『スタミナ』など。
もちろん、林田氏は昭和40年男である。
7月に発売したセルフカバーアルバム『WORKS』を記念して行われた
「WORKSTOUR2009」のファイナルライヴである。
今回、縁あってお招きいただいたので、
いそいそと会場であるシブヤBOXXに向かった。
実は個人的に林田氏の少し鼻にかかったような歌声が好きで、
学生のころに聞いていたが、久しぶりにその歌声を聞けるとあって
とても楽しみだったのだ。
会場は300入ればいっぱいという小ぢんまりとした箱で
男女比は8:2程度とやはり圧倒的に女性が多い。
みなさん30歳以上でなかには妊婦さんも!
胎教にいいのだろうか…などと思っているうちにライヴはスタートした。
はたして、伸びのある歌声は健在だった。
というか、以前よりパワーアップしている?
気持ちよく伸びる中音に聞き惚れてしまった。
MCでは「久しぶりのライヴで疲れが抜けなくてね~(笑)」などと冗談ぽく話していたが、
来年は二枚組のアルバムを出したいとの意欲的なコメントも飛び出すなど
なかなかどうして、気合い充実。
しかも歌声だけでなく、身体もキレている。
クルクルと回ったり足を振り上げるなど、ダンスも激しい。
あれだけの身体を維持するのも大変だろうななどと余計なお世話か。
若さにまかせたがむしゃらさこそないものの、
すばらしく完成度が高く、まさに大人の魅力に満ちたステージであった。
一見ハデに見える音楽産業。
しかし、楽曲を作ったり、レコーディングしたりする作業は地味である。
しかも音楽産業も劇的な変化を遂げているわけで、
そんななかで音楽活動を続けていくのも苦労が多いのだろうな
などとまたもや余計なお世話なことを思いつつ。
そうした状況を打破するには
前向きな思いで地味な作業をコツコツと積み重ねていくしかないのだろうなと
そんなことを考えた。
昭和40年生まれの活躍を目の当たりにしたライヴであった。
◆副編集長:小笠原
北海道生まれの35歳。仕事以外にこれといった趣味はないが、最近会社でコーヒーを豆から淹れることを覚えた。よりおいしく淹れるため、試行錯誤するのがちょっとした楽しみの一つになっている。
それでも俺たちはがんばった。
問題の企画は第1特集の後半、
P62から始まる懐かしい流行りモノ総点検のページである。
「ザ・ベストテンはまかせてくれ」
「MA-1あがりました」
分業で出来そうなものを各自取りかかっていき、次々とあがっていく。
困ったのはページセンターにつくった本文と、
本来イラストを入れるためにレイアウトしてあった白い囲み枠内だ。
発注が遅れた俺のミスでもあるが、
イラストレーターの仕事時間を見誤った。
何で埋めよう。
編集部の高橋が腰痛でダウンした。
これまでも騙し騙しやってきたのだが
1週間ほど自宅作業になり、
締め切り日が近づいたころになんとか出社してきたものの
進行はすこぶる悪い。
それに1週間の自宅作業はほとんど自宅療養だったといっていいだろう、
遅れも相当なものになっていた。
他の編集部員にも、もちろん俺にも余裕はまったくない。
そこで立てた作戦はこうだ。
比較的進行のいい編集員2名+俺が分担してフォローするというもの。
そんなん、作戦でもなんでもないと思われるかも知れないが、
この時点でキラーパスを飛ばすのは
失敗すれば大事故につながりかねない。
もっとも効率よく、しかもクォリティを守りながらできる人選をして、10月19日、発表した。
みんなもうパワーが残っていない。
ほとんど抜け殻状態からもう一度書くというのは、
元気玉を打った後に打つカメハメ波のようなものである。