出版業界は取次(とりつぎ)と呼ばれる
問屋さんによって守られている。
うちのような小さな出版社も
大出版社もみんなみんなお世話になっている。
俺はこの取次が大の苦手である。
簡単な話にすると、出版物の発行部数はここが決めるのだ。
圧倒的に強い存在なのである。
メジャー大手ならばいざ知らず、
少なくとも我々にとっては
非常に大きな力を持っている存在なのだ。
普段は取次担当と呼んでいる営業マンが
月に数回通い、それぞれの出版物の部数を交渉する。
「ちょっと前号重かったですねぇ。○○部ほど削りましょう」
「そこをなんとか、次はコレコレな企画で絶対に売れますから、
並び(前回と同部数)でお願いしますよ」
2人の間にあるのは、パソコンがたたき出すデータのみだ。
愛なんか入り込む余地はない。
こちらの情熱を伝えても、しっかりと頷いてから
やはりデータなのである。
そして今回のような創刊誌は
編集担当が営業と一緒に出向き、相談するようにしている。
より詳しく雑誌の方向性を伝えるためである。
ところが、これまでの俺の戦績を振り返ると
ほぼ全敗なのである。
この男とは料理に対する姿勢がシンクロする。
これまでずいぶんと料理談義に花を咲かしたものである。
この打合せと称した場もトマトソースと出汁の話で盛り上がり、
やがて仕事の打ち合わせからいつもの料理談義になった。
そうなるとガンガン呑みが進んでいき、
2人の酔っぱらいがほらでき上がり。
「取材が終わったらさ、作った料理で呑もうぜ。
それと今日の呑み代がギャラだな」
「いいっすよ、当たり前じゃないですか。
北村さんの創刊なんすから」
ありがとう。
持つべきものは、プロフェッショナルな友だな。
27時を過ぎた。
翌日は2人とも早い時間から仕事であるが、
んなことを言いっこなしな2人だとはいえ、
この時間に呑んでいるのはいかがなものかと…。
まっ、ここのところ呑んでいないのだから止まらないのも仕方ない。
結局、朝4時に会社に戻り、2時間の仮眠で出発となったよ、トホホ。
知り合いの寿司職人に
“家呑みへの招待状”の
つまみのページを託すことにした。
以前にも触れた「2大ベースで攻略する」
というあの企画である。
赤坂の寿司屋で知り合って以来、
ずいぶんと深い付き合いをさせてもらっている。
店を出すというオーナーの誘いに乗り退店し、
そのオーナーが実にいい加減で話はポシャり、
現在は銀座の一流店で
またイチから修行の日々を送っている。
「あのさあ、料理つくってほしいんだよ。ノーギャラで」
でたー、伝家の宝刀“ノーギャラ”だーっ。
「詳しい打ち合わせをさっ、どっかで呑みながらでもやろうよ」
というわけで18日の金曜の夜11時過ぎ、
銀座で仕事上がりのヤツを待ち伏せた。
果たして将来、
平泉が世界遺産に登録され
年がら年中観光客であふれかえって、
今回のようなゆったりとした旅ができなくなったら悲しいな。
でもこれは地元で生きる人にとっては、死活問題である。
飲食店や物産店などの商売を営んでいる方々は、
言うまでもなく人であふれた方がよい。
今回の居酒屋さんで反対の意見を出していた方は、
そうした生き方でないわけだし。
でも、静かなままの平泉を
未来永劫残していきたいという気持ちは
それはそれで真実なわけでさ。
旅人は軽々しく口を挟めないのである。
自分なりの解釈で飲み込んだのだった。
翌日は晴天に恵まれ、順調に撮影も進んだ。
“旅の空から”というタイトルは
“小さな旅の土産もの”にかわり完成したとさ。
よーし、せっかく海のそばだから
奮発しようと寿司屋に入ったらこれが最悪で、
チェーン店丸出しの味も素っ気もない店だった。
すべてのチェーン店が、というわけではないけれど
心がまったく入っていなくて、
システムばかりで勝負しているチェーン店て多いよね。
まさにそんな感じの店で、
とても板さんと話をする雰囲気じゃない。
刺身の盛り合わせだけで、
握りを1つも頼まず嫌味っぽく引き上げた。
まっ、嫌味とも感じないのだろうけど。
そんで気を取り直して入った居酒屋が最高だった。
(ここからは原稿に書いた通りなのでそっちも読んでね)
地元の方からいろんな話を聞けた。
それにしても、世界遺産の問題は旅先で聴かされることが多い。
実際に登録されたところで
「こんなものとらなければよかった」と、
吐き捨てるようなセリフに出くわすことがあるのだ。
旅人にとっても嫌な思いをすることが多いものなあ。
この本の仕事だけに集中できたら
どんなにすばらしいだろう。
と、愚痴のひとつもこぼしたくなる兼務ぶりなのである。
ところがこれもいいように使えることもある。
締め切りの恐怖に震える9月13日。
イベントの仕事で岩手まで行かねばならぬ。
かねてより、軽い旅の1ページものを
入れたいなと思っていた。
台割表にも“旅の空から”というタイトルが
ずいぶんと早い段階で入っている。
が、誰がやるのか?
どんな企画なのか?
この段階で神のみぞ知るという状態。
そこで、このタイミングを見逃す手はない!!
スーパー編集長からスーパー編集者へと変身した瞬間だ。
小笠原に
「平泉で1日取材してくるよ」
「いいですね~。撮るんですよね?」
「うん、撮って書いちゃうよーん」
機材一式を背負い込み、
イベントが主たる目的であったはずの岩手出張に出かけた。
無事にイベントを終え、仲間と別れて
一関に安宿をとって翌日に備えた。
健康? カンタン? 和食?
うーん、どれもありきたりだ。
こういったときよく使う秘密の作戦をコッソリ教えちゃおう。
“3大○○で攻略する”だ。
○○の部分を考えるとあら不思議、いい企画になるじゃない。
ビジネスシーンで日夜戦う40年男たちは、ぜひ活用してみてください。
しばし考えていると…
・
・
・
きたーっ! ソースだよ。
しかもそれをベースに和洋中を制覇できたらおもしろい。
これだっと早速紙に書き出す。
和は出汁でしょ。
なんつったって簡単だし、量をケチらなければすばらしい味わいが約束される。
うん、すると洋はトマトだな。
これもとにかく簡単なのと、応用料理が幅広いのがすばらしい。
そして大きな壁に衝突した。
中華のベースだ。
アイデアレベルでは“ジャン”だなと思っていた。
香味野菜と中華系の調味料を掛け合わせてベースにするというもの。
ところが資料を検索すると一言でジャンとくくりきれないほど多い。
また、ひとつのベースから作れる料理の幅が狭い。
ここに中国4千年の歴史を見たのである(!?)。
少々残念だけど、2大ベースでいこう。
ページとしては十分説得力のあるものになるはずだ。
2大ベースで攻略する極上つまみ。
うん、タイトルもバッチリでいいんじゃない。
「家のみへの招待状」という
ひとりの休日を充実した1日にしようという企画で
ずっと決まらなかったのが料理だった。
料理をやったことがない人でもつくれて、
しかもお店以上のもの味わえるというメニューのレシピを掲載したい。
当初は魅力的な10品程度をチョイスして、
問題はロケだけと簡単に考えていた。
だが、こういった段階で熱が入っていくと
ちょっと自分自身にケチをつけたくなる。
レシピブームといえるほど書店に並んでいるのに、
ただ10品並べてもおもしろくないよな。
なんかキーワードが欲しいなあ。
デカイ特集ではなく、
総花的につくろうとした理由にはいくつかある。
まずは昭和40年の男に絞り込んだ雑誌が
通用するのかどうかを試したいというところが大きい。
たとえば、京都で組むとしよう。
「この歳だから楽しめる京都」という切り口だ。
うん、いくらでもアイデアはわいてくる。
でも、京都へのひきで今回の本の売れ行きが左右されることが大きくなる。
仏像でも落語でも、温泉でも料理でも、その題材が勝負になってしまう。
俺は今回、年齢限定としたことが支持されるか否かを試したい。
リスキーだけど、逆に広くしてみるという方法に出た。
それと、俺たちの時代の雑誌といえば情報がてんこ盛りだった。
「それならネットで十分じゃないか」
わかりますよ、それも嫌ってほど議論してきた話。
でもここでもこだわってみたのは、
紙でしか伝わらない熱気をぶち込むことができれば、
きっと届くという根拠のまったくない自信だった。
とにかくこの日、企画は固まった。
あとは自分の世界観をカタチにしていくだけだ。
やるぞー!!
最近の成功している雑誌のトレンドとして
特集がデカイということは、
みなさんもご存知のとおりだ。
ほとんど1冊が特集で構成されているのがソレで、
仏像とか落語とか京都とかっていうアレである。


昭和40年男も定期創刊が決まったらそっちでいく。
ただ今回は、逆行するが総花的につくってみようと
かなり早い段階から決めていた。