ウォークマン初体験!?

大詰めを迎えている次号のモノ特集の撮影用に、コレクターの方からウォークマンを貸していただいた。なんと未使用の箱入り娘である。おそるおそる箱から取り出して、撮影を終えた深夜にはまた箱に戻して、ふーっ。そんな貴重なものをバカ面で聴いていいのかと驚きの皆さん、なんとこれは試聴用にテープ込みで別の一台を貸してくださったものだ。ホントにありがたい話で、ご厚意に報いるためにもいいページをつくろうと張り切っているところだ。試聴用とはいえ貴重品であることには違いなく、ビビりながら1曲だけで終わりにした。

僕は育った家が家電販売業、いわゆる街の電気屋さんだったから扱いメーカー以外の電気製品にはほとんどふれられなかった。親父の目の黒いうちは松下とシャープだけという、厳しい縛りの中で生きていた。自分の力でやっとの思いで買ったステレオも、親父に納めてもらったテクニクスだった。平成7年に目が黒くなくなってしまい、現在では我が家にも他メーカーが入り込み、やっと縛りから解放された充実の家電ライフになったのである。

中高生の頃、男の子はオーディオ機器に憧れた。アンプはどこがいいとか、デッキはスピーカーはとか。でも僕の選択はテクニクスしかなく、同級生の会話がうらやましかった。しかも新品なんか買ってくれるはずがなく、たいがい下請け品を修理したものをあてがわれたから、最新とはほど遠いものばかりを聴いていたのだ。ないよりましだからそれなりに楽しんでいたけど、ダイヤトーンだったか、プレイヤーが縦型だったのはホントに欲しかったな。それとなぜか、パイオニアというメーカー名に憧れがあって、人生初の他社メーカーはパイオニアのCDプレイヤーだった。そしてなんといっても、欲しかった音楽ツールとして燦然と輝くのがウォークマンだった。ステレオで聴ける。小さい。ベルトに挟める。画期的であり、大ヒットするのも頷ける商品だ。今回試聴してみて、ヒットの大きな要因をもうひとつ見つけた。

記憶が曖昧であるが、もしかしたら僕は昨日、生まれて初めてウォークマンで音楽を聴いたかもしれない。ともかく記憶にはないのである。手にした試聴用ウォークマンはずっしりと重く、デザインをキチンと感じさせるいいプロダクトだ。ヘッドフォンジャックが2つある。これだっ、憎いなあ。ウォークマンの登場で音楽はパーソナルなものになったというけど、初期のころのこの設定は、当然男女で聴くということになる。さすがソニーである。音楽の楽しみ方の新しい提案だったわけだ。それまで音楽は、ステレオでかけてみんなで共有する。もしくはヘッドフォンで1人で聴く世界に、2人っきりで聴くというシーンまで一緒にして、発売に踏み切ったわけだ。2人っきりの部屋とかクルマの中で聴くのとはちょっと違う。2人にしか聴こえないところがいい。おしゃれに街を歩きながらでも2人っきりなのだから、まさに新しい価値ごと売ったのである。見事っ。当時はAORが全盛になり始めたころだったから、僕らよりちょっと上の大学生の方々なんかはきっとLove Machine扱いだっただろうね。甘いラブソングだけを詰め込んだオリジナルテープを作って持ち歩いて。その後は徐々にパーソナルユースなものになっていくのだが、それはそれ。狙いの通りでなくても、エッセンスとして商品に内包されていたことが素晴らしいのである。

多分生まれて初めてのウォークマン体験だったが、感想はビックリのクリーンな音に感動した。ノイズがない。録音状態やテープの状態とかもよかったのだろうけど、こんなにしっかりと聴かせるとは知らなかった。今さら1台欲しいが、ああそうだ、何百本もあったカセットを全部捨ててしまったよ(泣)。

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