桑田佳祐さんを探る一枚。

IMG_5066桑田さんは常に変化しつつ、挑戦しつつ国内最高峰のエンターテイナーとして突っ走ってきた。そのルーツを垣間見られるアルバムが、桑田さん扮するシンガー嘉門雄三のライブアルバム『KAMON YUZO & VICTOR WHEELS LIVE!!』だ。今も続く老舗ライブハウス渋谷エッグマンで昭和56年の暮れに行われたライブ(発売は翌年)を収録したものだ。これが楽しいったらない。

1曲を除いてカバーで構成されているアルバムは、その選曲が素晴らしい。ブルース、AOR、R&B、レゲエ、そしてロックロール。桑田さんにはこれらがすべてしっかりとベースになっていて、こんなに何でもできるんだというレベルでなく、専門職人の域で歌うのだから素晴らしいを超えて凄まじいまでのシンガーっぷりだ。

貸レコードが急伸した時代に、こんなユーモアで対抗している
貸レコードが急伸した時代に、こんなユーモアで対抗している

先日久しぶりにアナログ棚から引っ張り出して針を落とした(うーん、いい響きの言葉だな)。このアルバムを初めて聞いたのは高2の頃で、ハードロックから脱皮を始めてロック、R&B、ブルースへと心が移行している真っ只中だった。だからよけいにこのアルバムの選曲が気に入ったし役にも立った。ポインター・シターズの『スロー・ハンド』、ビリー・ジョエルの『ガラスのニューヨーク』、ジョンの『イマジン』、ディランの『ジャスト・ライク・ア・ウーマン』、ザ・バンドの『ウエイト』、そしてブルースのスタンダードと言っていいだろう『ハブ・ユー・エバー・ラブド・ア・ウーマン』はすべて高校時代にカバーした曲であり、このアルバムに収録されているのである。当時の嗜好ともピッタリとシンクロする内容ということだ。

最近の桑田さんは『ヨシ子さん』という問題作で僕を涙させ、朝NHKの連ドラで流れる『若い広場』で唸らせられている。これらにも嘉門雄三ライブとしっかりつながっていて、聴きながら勝手にうなづいていた。そしてこのアルバムがなかったら、僕の桑田さん愛は少し変わっていたかもしれない。それは前述のシンクロ(僭越ながら)によるところと、どんな楽曲も自分のものにしてしまう凄まじいまでのシンガースピリットである。

そしてこれはつい先日の話で、桂雀々さんの40周年を祝う公演にサプライズゲストとして白装束で現れた桑田さんは“まだまだ「ひよっこ」”と書かれたタスキをかけていた。最近、重度の涙腺崩壊症に悩まされている僕の涙を誘ったことは言うまでもあるまい。こんな気持ちであり続けたいなと思うのと同時に、そもそもこのアルバムを久しぶりに引っ張り出させたきっかけとなった出来事だ。素晴らしいライブアルバムを17歳の僕に押し込んでくれたことと、今も涙を誘い続けてくれる桑田さん、ありがとうございます。

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2件のコメント

  1. 画像キャプションの、貸しレコード時代へのユーモア。私はとんねるずのファーストアルバム「成増」での「ダビングすんじゃねぇよ!」を思い出しました(笑)

    • それは知らなかったです。情報ありがとうございます。当時はそんなメッセージが多かったのですかね?
      みなさん、何か知ってたら教えてくださ〜い。

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