男たちの無念。

2015 年 6 月 29 日 プロデューサー コメント

さっきまで爆音に包まれていたレース終了後のサーキット。祭りの後の静けさ

さっきまで爆音に包まれていたレース終了後のサーキット。祭りの後の静けさ

仕事に結果を出す。それが共同作業になると、互いに引き出し合って力を出すことがある。逆に無念の結果になることも。昨日はそんな場面を目の当たりにして激しく心を動かされた。全日本ロードレース選手権の第4戦でのことで、始まる前に期待を込めてこんなことを書いたのが今となってははしゃぎ過ぎだと思えてしまう。

 

 

今日のブログはちょっと長くなってしまうだろうが、バイクレースに興味のない方へと届くように努力するので、どうかお付き合い願いたい。

 

 

レースの取材のときは、前提としてはどのチームも頑張れと思う気持ちでのぞむ。いいパフォーマンスを発揮して、レベルの高い戦いをお客さんに見せてほしいと願う。それを取材して、少しでもいい記事を作りたい。そんなスタンスで仕事に取り組みながらも、様々な場面で知り合いになったライダーたちにどうしても感情移入してしまう。取材を通じて心の中に土足で踏み込んだり、イベントでトークショーを展開したり、酒を酌み交わしたりなんてこともちょくちょくある。そんな者たちの走りが気にならないなんて無理で、懇意にしているチームのゼッケンをついつい追いかける未熟者だ。つき合いの機会が増えれば増えた分だけ、応援する気持ちが強くなるのも人間だもの仕方ないだろう。

 

 

昨日のゼッケン87番を駆り、カワサキを背負った2人のライダーとはずいぶんたくさんの仕事をさせてもらった。僕より6個下の現在43歳のベテランライダー柳川明選手は自宅まで上がり込んだことがあり、もうかれこれ10年以上のつきあいになる。25個下の若きエース渡辺一樹選手はこのブログにちょくちょく登場する、この3年で仕事をご一緒することが激増した若者だ。2人は優勝を目指して1台のマシンで戦った。

 

 

昨日のレースは夏の祭典『鈴鹿8耐』の前哨戦と位置づけられ、ミニ耐久と呼ばれる内容のものだ。簡略に説明すると、給油などのピットワークが各チーム1回以上強制されていて、その時にライダー交代をしてもしなくてもいいというものだ。2人で走ることを選択すると、双方のセッティングの方向性をどこでバランスさせるかが難しくなる。だがメンタルフィジカルともにライダーの負担はグーンと減る。逆に1人で走るのは長丁場だからしんどいが、マシンのセッティングはこれまで3戦のレースを戦ってきているから仕上がりはいい。どちらも利点はあるが、カワサキの選択は前者だった。ライダーの負担という面はあるが、『鈴鹿8耐』を見据えてこのタイミングでセッティングを煮詰めていくこともあったと思われる。バイク雑誌だったらもっとたくさんの情報をお届けしたいところだが、ここではグッと堪えてこれくらいにしよう。

 

 

面倒なのは年間8戦で競うシリーズの1つであることだ。もしもどちらかが転倒すれば、そこからのリカバリーは難しく、ノーポイントになってしまう可能性は極めて高く、これはそのままシリーズチャンピオンが大きく遠ざかってしまうことになる。第1ライダーを任された柳川さんはその重責と葛藤しながら慎重に攻めたに違いない。が、転倒してしまった。

 

 

スタート直後に雨が降り出した。2位を走っている選手が転倒して、その後ろを3台で形成していた3位グループにいた柳川さんは2位グループにあがったと思ったその直後に、3台ともども転倒してしまったのだ。つまり序盤で上位が4台も、優勝争いから脱落してしまった。

 

 

なんとかマシンをピットまで運んだ時にはもうすでに勝利どころか、ポイントも付かないだろう場面になっていた。それでもピットでは懸命の修理を施し、渡辺選手をコースへと送り込んだ。『鈴鹿8耐』に向けてデータを取ること。ピットワークをレース本番の中でより高い次元へと持っていくこと。そんな目的だろうか。修理に走る男たちの姿をずっと見つめていた僕には、諦めずに走り出した瞬間は涙ものだった。

 

 

レース終了直後に、座った渡辺選手に駆け寄り声をかける監督だった

レース終了直後に、座った渡辺選手に駆け寄り声をかける監督だった

転倒によって泥だらけのツナギで無念の表情だった柳川選手は、渡辺選手が出て行くのを見送ると控えに戻っていった。その時にすれ違っ たその表情は、何度か見てしまった無念のそれとは少し違うように感じたのは、結果が自分だけのものでないからだろう。笑顔が清々しい彼のこんな表情を見るのは本当につらかった。そして走り出した渡辺選手は諦めず、いいタイムをたたき出しながら周回を続けた。2位や3位のバイクよりも速いタイムでラップしていく姿は、男の強さを見せつけられた気がした。

 

 

レースは終わった。ピットに戻った渡辺選手の険しい表情。駆け寄って健闘を讃える監督。黙々とピットを片付けるチームスタッフたち。何もかもが静かに過ぎていくシーンだった。僕は柳川選手にも渡辺選手にも声をかけることは出来ず、監督に「8耐でまたよろしくおねがいします」と伝えるのが精一杯だった。昨日はそんな1日で、とてもつなく長かった。

 

 

  

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