昭和40年男の財布で昭和の遺産を守ろう!?

やれた街が好きだ。東京でも秘密基地は浅草で開催しているし、若い頃は上野の居酒屋で長年働いていた。そもそも生まれ育ったのが東京下町の荒川区ということで、僕の嗜好は半分以上が決定されてしまった気がする。本当はオシャレな人間になりたかった(笑)。サーフィンなんかやって、バイトはカフェバーで、六本木でBMWを乗りこなしたかった。が、サーフィンボードはエレキギターになってしまい、バイトは居酒屋、車なんかまったくの無縁である。遊ぶ街も渋谷や原宿、六本木は高校時代から出かけることはあったものの、どうも肌に合わなかった。今に至ってずいぶん慣れたが、好んで遊ぶのは汚い街ばかりで、大阪に住んでいた19歳の頃も十三や阿倍野を愛して遊んでいた。

鳥万そんな僕が東京でもっともよく遊ぶ街の1つが大田区蒲田である。大田区は超高級住宅街の田園調布がある区なのに、その対極のような蒲田を有するのがおもしろい。10代より虜になり、20代の後半からは住むに至った。その後2度の引越でも蒲田にほど近いところに住んでいる。僕が愛する街なのだから、当然ながらステキな店が多い。その1つが蒲田の名所と言っていいだろう『鳥万』である。自慢の焼き鳥各種はすべて90円とついついたくさん頼んでしまう。その他の充実ぶりも半端でなく、一体いくつのメニューがあるんだと数えるのをあきらめるほど多い。それらが書かれた短冊が壁をビッシリと埋め尽くしている。280円〜320円といった価格帯のつまみが多く、どれもこれも普通にうまい。僕の評価で「普通にうまい」というのはかなり大きな要素だ。「昔ながらの」と言えばご理解いただけるだろうか。奇をてらうことなく、基本をキッチリと抑えながら実直な一皿たちだ。

蒲田『鳥万』はまさしくそれで、なにを頼んでも外さない。焼き鳥の店ながら、刺身なんかもキチンとしたものを出す。客層が高くておっさんには居心地がよく、ホールでテキパキと客をさばくおばちゃんもよい。そりゃあ若い女の子の方が好きだが、居酒屋ではありのままの自分でいたいからおばちゃんがいいのだ。

そしてステキなことは「普通にうまい」だけでない。こんなことがあってすっかりこの店の虜になった。女房と行って会計の時だ。家の財布を握るのは女房なんだから自然に払おうとすると「女に呑み代を払わせるもんじゃない」と説教され、僕に払えと言う。レジにいたおばちゃんにとっては男とはそういうものらしい。呑み屋とは男を磨く場所ですな、基本だ。

名店紹介が今日のテーマではない。近年はこんな店が減っていて、代わりに大資本の小ジャレた店に浸食されている。客が飲食店に求めている要素の変化だから仕方ない。「普通にうまい」とか、ましてや「男を磨く」なんてことを求めていない客が増えているのだから仕方ないのかもしれないが、少々寂しい。蒲田は長く愛してきたから、その変化を強く感じさせられている昨今である。俺たち世代こそ、こんな味のある店に積極的に出かけて存続に努めようじゃないか。昭和遺産を守ろう!!

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