ブルース・スプリングスティーンが教えてくれた。

ボーン・イン・ザ・USA本誌連動企画の『3番勝負!』には投票いただけただろうか? 今回は若かりし日々を盛り上げてくれた洋楽シーンの中から、ソロシンガーの対決にしてみた。イギリスシンガー対決の第1ラウンドに続いて、第2ラウンドはアメリカを代表するシンガー2人が対決だ。それにしても洋楽ジャンキーのせいで、どうも解説に思い入れが強く入り込み長くなっちまう。昨日はビリー・ジョエルについて延々と語ったが、今日はその相手としたブルース・スプリングスティーンにつき合ってくれ。

名前くらいはなんとなく知っていた中3の冬のことだ。またもやキッカケは『ダイヤトーン・ホップス・ベストテン』で、大ヒットとなった『ハングリー・ハート』だった。ポップなナンバーに魅力的な声で印象に残ったが、そのシングルが入ったアルバムは2枚組ということで、購入の検討には入れなかった。いや、予算的に入れられなかった。プラス、興味は持ったものの、その頃の絶対的な情報源である雑誌『ミュージックライフ』に取り上げられることが少なかったのだ。

高校に入って僕はバンド活動を加速させた。ギターを弾くはずが徐々に歌う比率が増していき、するとギターサウンド押しのミュージシャンより、自然とボーカリストの魅力的なバンドやソロシンガーに注目するようになった。ディープ・パープルやマイケル・シェンカーからはなれていき、ロッド・スチュワート率いるフェイセスやボブ・ディランといった具合に変化していく。すると当然のごとく、ブルース・スプリングスティーンもスーパーボーカリストなんだとチェックする機会が増え、グットタイミングでメンバーの1人がハマったのだった。ストーンズをこよなく愛する彼にとっては、そのロックスピリットが琴線にふれたのだと、次々にレコードを入手しては僕にレコメンドしてくれた。

明日なき暴走高2の終わりくらいのことだった。そういえば昔『ハングリー・ハート』を聴いて好きだったと告げると、あれは駄作なんだと言いながらもレコードを取り出してかけてくれたのだった。「こんなんじゃない。なんといってもすげえのはこのアルバムなんだ」と、昭和50年発表の『明日なき暴走』を何度も聴かせてくれた。絶対的な権威を持つ音楽史『ローリング・ストーン』が選ぶオールタイム・ベストアルバム500で、18位にランキングされている、ロック史に残る名作である。昨日紹介したビリー・ジョエルのようなポップなメロディラインではない。ゴリゴリと押すような曲の数々は、フェイセスやボブ・ディランら、辛口ロックに夢中になっていた当時の僕にとって最高の1枚となった。オリジナル曲を書き始めたころだったから1つの光明にもなったのだ。これでいいんだ。ビリー・ジョエルやビートルズのようなキャッチーな曲ばかりが音楽じゃない。ロックスピリッツを感じさせるのは、華美でないメロディラインの方がむしろ都合が良いのだと、まあ、才能のなさをこんな風に処理したのだった。

そんなブルース・スプリングスティーンだから、ビリーに比べたらシングルヒットが少ない。そしてむしろ、ヒットしたシングルは彼の本筋から外れた曲が多く、それがこの対決でも現在不利な数字になって表れているのかもしれない。『ハングリー・ハート』は無理矢理なポップナンバーだし、最悪の出来のビデオクリップが痛々しい『ダンシン・イン・ザ・ダーク』なんて、聴くのが恥ずかしくなるほど、ポップにしようと空回りしている。これらが昭和40年男の評価を下げていることは間違いないだろう。だが『明日なき暴走』を通して聴けば、その評価は一変するはずだ。もし、このアルバムを聴いたことがないという方には、自身を持っておススメする。ロックとはこういうものなんだと、素晴らしい出会いとなる1枚だ。

さて、今日も長々と述べてきたが、あなたの1票はこのシンガー対決のどっちに投じる?

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