家賃の安い街の飲食店にて。

家の近所に小さな和食の店ができた。気になっていたのだが入りづらかったのは、キチンと盛り塩がしてありメニューが書いていないから。当然ながらビビる。ところが最近、店頭に店舗案内の挨拶が置かれて、思ったほどの値段でないことがわかり予約を入れた。

うかがう前に下調べでもしてみようかと検索してみたら、デジタル社会とはスゴイものでいろんなことがわかった。このお店は、僕の住む街にオープンする前は、もっとハイソな街で支持されていた。そこに行ったお客さんの、上々の声も多く見られる。そして突如としてここを閉じて、別の街で新しい店を開くとホームページに書かれていた。そして次の店、つまり現在の店舗詳細は知らせませんとしてあり、加えて一切の宣伝活動をしないことを宣言していた。小難しい職人気取りだったらイヤだなと思ったが、同時に興味もわいた。そして予約当日、ドキドキしながらのれんをくぐったのだった。

職人さんが1人で出迎えてくれた。カウンター8席と4人掛けのテーブルが1つの小さな店舗だ。神棚が祀ってある清潔な店内はなかなかよい。
「予約した北村です」「お待ちしてました」と、明るい声が戻ってきて、ひとまず小難しい職人ではなさそうだと安心したのだった。カウンター越しに次々と出てくる料理の数々はどれも好感が持て、食と酒がガンガン進んだ。先にカウンターを陣取っていた客が帰って、僕ら一組になったところで主人に質問してみた。
「なぜ前の街からでたのですか?」
店の方針で、個人のネットなどにも特定できないようにしてほしいとの意向なので、前にいた街さえ書けないが、前述のとおり僕なんかは寄り付かない街である。
「大きな店舗だったから従業員を数名使って、その上家賃が高かったんです。どうしてもソロバンばかりはじいてしまっていたんですよ」とのこと。好きな材料を使って、目の前にいる自分のことを支持してくれる客にだけ供する料理屋にリスタートを切ったとのことだ。もちろん、僕が住んでいる街だから家賃は安いのも容易にわかる。おっとゃる信念のとおり、次々と丁寧に手の入った料理にうれしくなった。ご近所さんと出くわすハプニングもあり、すっかりと長居になってしまって覚悟の会計をお願いした。フムフムなるほど、家賃が安いとは素晴らしいと思える値段だった。

信念は個性を作る。昭和49年男の主人に教えられた夜だった。

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