死について考える。〜その3 遺影にむかって〜

ヤツの街の桜は散り始めていて、すでに葉が混じっていた
ヤツの街の桜は散り始めていて、すでに葉が混じっていた

ヤツの家に着いた。
心は着いてしまったという気持ちで、あまりにも悲しい再会だ。
最後に酒を酌み交わしたときとほとんど変わらない、笑顔の遺影に向かって
「バカ」と言い、線香に火をつけた。
チンチン。
手を合わしていると、体が震えてきた。
いろんな言葉をかけながら、悲しみだけじゃないいろんな感情が
胸の中をグルグルと回る。
合わせた手を下ろし
「こんな再会は嫌ですね」
と、奥さんに告げた。

大腸ガンで、発見からわずか半年で逝ってしまったそうだ。
極真空手で精神と体を鍛えたヤツは、居酒屋当時からよく言っていた。
病は気の流れの小さな狂いから始まって、大きくなると大病になるものだと。
西洋医学を否定する発言もよくしていた。
奥さんいわく、漢方薬で治すと言って聞かず、結局切らなかったそうだ。
バカな。
大腸ガンは切れば比較的完治させやすいということは、俺でも知っている。
なのにヤツは自分の哲学を貫いてしまった。
そのせいで奥さんと子供3人を残して先に旅立ってしまったということだ。

温厚だが頑固なヤツだった。
人には優しくて、自分に厳しくて、信念を曲げない。
そんなヤツだったから漢方だけで治すなどとほざき、
たぶん痛みや苦しみもあっただろうに、
結局家族を4人残してこんなことになっちまった。
家族とは比にならないが、
ここにこうしている俺や多くの仲間にも悲しみだけを残して逝きやがった。
奥さんは切らせなかったことを悔やんでいた。
どう思います?
このバカ者のことを。

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2件のコメント

  1. はじめまして!『昭和40年男』に刺激され、自分で雑誌は作れないけどブログならできる!・・・という思いで走り始めたばかりの40歳です。

    男が守るべきもの・・・それは愛する家族だと思います。どんなにキツイ思いをしても家族がいるから頑張れると思うし、家族の生活を背負っていくのが男の生き様だと俺は思います。
    もし、誰かに殺されそうになったら必死で逃げて生き延びたいと思います。それは相手がガンという病気でも同じです。なんとかして生き延びる方法を俺は選ぶと思います。
    残された家族のことを思うと不憫でなりませんが、その方は自分自身で「もう長くはない」と悟ったのかもしれませんね。
    そして自分のスタイルを貫いて死んでいった・・・。
    なかなかマネできないカッコよすぎる生き方だと思います。

    ご冥福をお祈りします・・・

    • コメントありがとうございます。小誌が刺激になったというのは大変うれしく思います。必死で生き抜くことがもっともカッコいいことですよね。それも前に向かって走りながらですよね。がんばりましょう。

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