【懐かしの名盤】ザ・バンド『Music From Big Pink/ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(5/13)

大変長らくのご無沙汰になってしまった。不定期連載企画、懐かしの名盤ジャンジャカジャーンのシリーズ第9弾は、ザ・バンドでお送りしている。1976年に事実上解散しているから、リアルタイムで聴いていたという昭和40年男は稀だろう。もし彼らの音を聴いたことがなかったら、ぜひこのアルバムに手を伸ばしてほしい。心にじっくりと響き渡るような音が広がり、40年以上前のデビューとは思えない素晴らしい世界を知ることになる。

ザ・バンドは、このデビューアルバムを出す前に相当なキャリアを積んできた。総仕上げとなったのは、ボブ・ディランとのツアーとその後の4ヶ月にも及ぶ創作活動だった。ともに持っているものをぶつけ合いながらの合宿生活で、150曲ものデモを作った。世界のトップにいるディランと一緒に練り上げた時間がバンドにとって、そして、個々のメンバーにとってどれほどのエネルギーになったかは計り知れない。この素晴らしい合宿の後、ザ・バンドは本格的にレコーディングに入り、いきなりの挨拶状となったアルバムがこの傑作『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』だ。ザ・バンドを聴いたことのない人に説明するとき、僕はよくイーグルスと比較しながら「アメリカの土っぽい臭いを残している感じは似ている。スゴイ実力を持ったバンドで、イーグルスより渋くて演奏がうまくて歌もうまい。そんでなんてったってギターが凄いから聴いてみなよ」とのセリフを使っている。

5人編成のバンドで基本形はギター、ベース、ピアノ、キーボード、ドラムで、楽曲によってマンドリンやバンジョー、バイオリンを持ち出しては、担当楽器を変えたりする。“主に”ドラムのレヴォン・ヘルムがマンドリンを弾くと“主に”ピアノのリチャード・マニュエルがドラムを叩くといった具合だ。なんでも屋のように見えるが、全員とも持った楽器を最高に鳴らす職人である。ボーカルもしかりで、主にベースのリック・ダンゴと前述のレヴォンとリチャードの計3人が担当していて、これがどいつもこいつも一流のボーカリストだ。以前、アメリカの音楽雑誌『ローリングストーン』が発表した偉大なボーカリスト100人の中に、レヴォン・ヘルムが91位に入っていた。レヴォンがこの順位なら、僕から見ればリック・ダンゴが120位くらいで、リチャード・マニュエルは70位前後にランキングさせたい。そのくらいの高レベルで3人が拮抗している。楽器を持たない、ソロシンガーでも十分に通用する3人が入れ替わりで歌う贅沢を味わえる。そして曲のセンスがいい。渋いのにポップでポップなのに深い。聴きやすいのに何気なくたくさんのひねりや技が効いている。難解なアートっぽい音楽をやれといったら、相当なレベルのものを作り出すだろう。そのくらいの音楽インテリがひたすらに聴きやすい音楽を作り出している。力を抜いてわかりやすい方向へと持っていくのでなく、音楽的頭脳を全力で注ぎわかりやすい楽曲に仕上げるのだから、リスナーはノックダウンである。(つづく)

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